民事執行法の概要
4つの執行手続
①強制執行(ヌ)
債権等の権利内容を国家の力によって、債務者の意思に反して実現することです。
実体法上(民法)の「履行の強制」を裁判所手続の面から見たものが強制執行です。
②担保競売(ケ)
抵当権・質権・先取特権の実行手続です。
仮登記担保、譲渡担保は担保競売に含まれません。(私的実行となります。)
③換価の為の競売
相続等、請求権の内容を満足させる目的はなく、財産を金銭化する必要がある場合の手続です。
(不動産等、等分が難しい財産を金銭にしてスムーズな分配を行う目的です。)
④債務者の財産の開示
債権者が金銭債権の完全な弁済が得られない場合に、債務者が出頭の上財産について陳述しなければならない制度です。
(本当に弁済ができないのか、隠し財産はないか確認する目的です。)
★なお強制競売、担保競売は本質的に共通しており、民事執行法上は同様の手続で実施されます。
強制執行の流れ
強制競売
「債務名義」に基づいて差押→換価→満足の三段階を経るのが基本となります。
債務名義:確定判決が典型例です。
担保競売
担保権の実行による競売であるため債務名義は不要です。
登記事項証明書等の「法定文書」を提出します。
★判決機関と執行機関は手続の迅速性を考慮して分離しています。(判決機関と執行機関の分離原則)
不動産競売申立ての流れ
①申立て
申立権者:強制競売は債務名義を、担保競売は担保権を有する者です。
②申立前の準備
残元本の額、未払利息の額、遅延損害金、期限の利益喪失の有無等の確認をします。
また、登記事項証明書を取得、確認します。
加えて、相手方の住所、対象不動産の所在、占有状況を確認します。
③申立書の作成
当事者目録、請求債権目録、物件目録を記載
添付書類:登記事項総名所、公課証明、住民票(個人)代表者の資格証明(法人)
④申立ての取下げ
適法に取下げがされると競売手続きは終了し、差押は遡って消滅します。
タイミングに応じて取下げの要件が変わります。
買受の申出前:自由に取下げできます。(裁判所へ書面提出)
申出ー許可決定前:最高価買受申出人、次順位買受申出人の同意が必要です。
許可決定ー代金納付前:買受人の同意が必要です。
代金納付後:取下げできません。(配当受領権の放棄として処理)
競売開始決定
目的不動産の差押えをもって開始します。
開始の決定に際して債務者への送達と、書記官による差押えの登記の管轄登記所への嘱託が必要となります。
差押え後は処分制限の効力を受ける事となりますが、債務者は通常の用法に従って不動産の使用収益が可能です。
処分制限に反する処分行為の効力は、特定の債権者との間では無効となります。(相対的無効)
特定の債権者とは競売手続に参加する債権者であり、参加しない債権者への処分行為の効力は有効です。(手続相対効)
★執行手続中、時効は完成しません。(時効の完成猶予)
手続後は時効が更新され、新たに時効期間が進行し始めます(時効の更新)
★競売決定に異議のある者は「執行異議」を申し立てます。(執行抗告による申立ては出来ません。)
二重開始決定とは
同一不動産で複数の申立てがされた場合、裁判所は重ねて開始決定をします。(二重開始決定)
要件:先行事件が存在すること、債務者が同一であること、代金納付前の申立てであること
先行事件が取消しor取下げで終了:競売手続きを当然に続行させます(後行事件として)
先行事件が停止:一定の要件の下で競売手続きを続行します。
★先行手続が続行した場合でも、二重開始決定を受けた別の申立債権者は配当要求の申立てにより配当を受けられます。
売却準備・売却処分の流れ
売却処分決定ー競売手続開始に際し、競売申立に係る債権者以外の権利や登記の取り扱いを踏まえる必要があります。
基本的に抵当権設定前に登記された権利があれば手続きは停止され、権利の不行使が確定したタイミングで続行します。
I:仮差押えの登記の取り扱い
仮差押え→抵当権設定→抵当権担保競売→仮差押えの取消:続行
仮差押え→抵当権設定→抵当権担保競売→仮差押えが本執行に移行:取消
抵当権設定→仮差押え→抵当権担保競売→仮差押えの取消or本執行:続行
II:処分禁止のの仮処分の登記の取り扱い
仮処分(所有権移転)→競売申立:停止
仮処分(所有権移転)→競売申立→本案訴訟で敗訴等:続行
仮処分(担保権設定等)→競売申立:続行
III:買戻特約の取り扱い
買戻特約→競売申立:停止
買戻特約→競売申立→買戻権の不行使確定:続行
IV:所有権移転仮登記の取り扱い
移転仮登記(非担保目的)→競売申立:停止
移転仮登記(非担保目的)→競売申立→仮登記抹消:続行
移転仮登記(担保目的)→競売申立:続行
競売開始決定後の倒産手続
各種倒産手続によって、競売手続への影響(停止・中止・続行)が異なります。
強制競売
破産:停止 会社更生:中止 民事再生:中止 特別清算:中止
担保不動産競売
破産:続行 会社更生:中止 民事再生:続行 特別清算:続行
★民事再生や破産では、担保権は別除権として扱われるのに対し、
会社更生法では更生手続以外の権利行使は禁止される為、担保不動産競売であっても手続きは中止となります。
債権関係調査
配当要求:申立債権者以外の債権者が競売手続きに参加し配当を要求することです。
交付要求:配当を要求する債権者が国税等の租税債権者である場合に行う手続きです。
配当要求の終期までの流れ
書記官が、終期の決定→公告→債権届出の催告→債権の届出→終期
※債権届出の催告に応じず違反した場合は損害倍総請求を負う事があります。
参加方法
差押債権者・差押登記前に登記された仮差押債権者、担保権者
→手続き不要で参加可能(登記によって債権者であることが明らかであるため)
配当要求債権者・差押登記前に登記された仮登記担保権者・交付要求債権者
→債権の発生要因及び額を執行裁判所に届け出た場合に限り、配当等の手続きに参加できる。
区分所有建物の管理費等についての配当要求
管理組合等は滞納されている管理費等について債務者の区分所有権及び建物に備え付けた動産の上に先取特権を有する。
この先取特権と抵当権等の担保物権の優劣は、登記の有無と先後で決する。
権利関係調査
現況調査:執行官が目的不動産の形状、占有関係、その他の現況について調査をします。
現況調査命令は、差押登記完了後速やかに発令されます。
また、執行停止文書の提出があった場合でも、現況調査は実施されます。
現況調査報告書の記載事項
建物の種類・構造・床面積の概要や土地の形状・地目、占有者の表示や占有状況、目的不動産の見取り図・写真 等
地代等支払許可制度
差押債権者が執行裁判所の許可を得て、債務者(借地人)の代わりに地代等を地主に代払する制度です。
支払った地代等と申立費用を共益費用として優先的に弁済を受ける事ができます。
この制度の趣旨は、滞納によって土地所有者が借地契約を解除する事を防ぐことで、
差押不動産の価値の毀損を防ぐことにあります。
売却条件の判断
法定売却条件:売却に伴う権利の消滅等、売却基準価額の決定等、一括売却、代金の納付、法定地上権、引渡命令
特別売却条件:売却に伴う権利の消滅等において、利害関係人が売却基準価額の決定までに法所定と異なる合意をした旨の届出をしたときは、その合意に従うものとされています。
消除主義:不動産の担保権や用役権を出来る限り消滅させ、買受人の負担を軽減する方針。
引受主義:差押債権者に優先する不動産上の負担はそのまま買受人に引き受けさせる方針。
現行法では消除主義を原則採用としています。
担保権の取り扱い
消除:先取特権、使用収益をしない旨の定めがある質権・抵当権、差押え・仮差押え又は仮処分の執行
引受:留置権、使用収益をしない旨の定めがない質権のうち最先順位のもの、最先順位の賃借権
剰余主義
剰余が出る見込みがない場合は売却しない制度です。(無益執行の禁止原則)
買受可能価額をもって執行費用のうち共益費用であるもの及び差押債権者の債権に優先する債権の見込合計額を弁済して剰余を生ずるか否かを判断し、
無剰余と判断された場合、執行裁判所から通知を受けた差押債権者が1週間以内に無剰余回避の措置を取らなければ競売手続きは取消となります。
入札→売却決定
最高価買受申出人が決まると、執行裁判所は職権により売却不許可事由の有無について調査し、売却の許可または不許可を決定します。
この決定に際し、その決定により自己の権利が害されることを主張するときに限り執行抗告をすることができます。
この場合、売却不許可事由があること又は売却許可決定の手続きに重大な誤りがあることを理由としなければなりません。
超過売却留保制度
複数の不動産が売却対象となっている場合に、一部の不動産ですべての弁済が出来る見込みがある場合、超過売却となります。
この場合、裁判所は他の不動産についての売却許可決定を留保しなければならないものとされています。(過剰執行の防止)
競売手続きの停止、取消
売却を3回実施させても買受の申出が無く、売却の見込みも無い場合、裁判所は競売手続きの停止をすることができます。
その旨の通知を受けた差押債権者が通知を受けた日から3か月以内に、買受の申出をしようとする者があることを理由として、
売却を実施するよう申し出た場合は、書記官は再売却を実施します。申出が無い場合、裁判所は手続きの取消が出来ます。
なお、取消決定に不服のある差押債権者は執行抗告をすることができます。
配当等手続
配当手続:債権者が2人以上いて、その各債権者の債権及び執行費用の全部を弁済する事ができない場合の手続き
弁済金交付手続:債権者が1人である場合又は2人以上であっても、各債権者の債権及び執行費用の全部を弁済する事ができる場合の簡便な手続き
不服申立手続
違法執行:執行の実施が民事執行の手続法規(民事執行法等)に違反する場合 執行抗告又は執行異議の手続が用意されています。
不当執行:執行の実施が実体法(民法等)に違反する場合
執行抗告:審理は執行裁判所の上級審が行います。売却許可決定、引渡命令、配当要求の却下に対する抗告が殆どです。
申立期間は裁判の告知から1週間以内となります。
執行異議:執行抗告ができないものや執行官の処分や遅怠に対してする。審理は執行裁判所自身が行います。
申立期間は執行手続終了までとなります。
※いずれも競売手続きを当然に停止させるものではなく、申立人に停止権限はなく、裁判所のみに権限があります。
滞納処分と競売手続の調整(滞調法)
公租公課を滞納した場合、滞納処分手続によって国が納税者の財産を差し押さえて売却する「公売」と、
民事執行「競売」が競合する事があります。
この場合に両者の調整を図る法律がいわゆる滞調法です。
滞調法では原則として先に差押えがなされた手続きで進行するものとされています。
競売続行決定手続
滞納処分手続の進行中でも一定の要件のもとに競売手続の続行決定が認められています。
一定の要件:抵当権設定が滞納処分による差押え前にされている事
競売続行の申立の要否
必要:滞納処分に差押え→参加差押え→滞納処分による差押の解除→競売による差押え
不要:その他のケース(先行事件が停止・取消・取下げ、競売による差押え後に滞納処分による差押の解除がされる 等)
★参加差押え:公租公課にかかる差押財産を再度差し押さえる事です。
民事訴訟法
民事訴訟法は、競売手続きの根拠となる債務名義を取得する過程、
および競売手続き自体に対する不服申し立て(争訟)の基盤を提供します。
債務名義の取得
競売(強制執行)を行うためには、債権者がその権利を証明する債務名義(例:確定判決)
を民事訴訟手続きを通じて取得することが大前提となります。
執行異議の訴え
債務者が競売手続き自体に法的な瑕疵があるとして不服を申し立てる場合、執行異議を申し立てることができ、
これは民事執行法の規定に基づいていますが、その審理の枠組みは民事訴訟法の原則に準じます。
第三者異議の訴え
不動産の所有者であると主張する第三者が、その不動産に対する競売を阻止するために起こす訴訟です。
これは完全に民事訴訟として提起・審理されます。
和解
訴訟上の和解は、その内容が調書に記載されたときは確定判決と同一の効力を有します。
支払督促
通常の訴訟によらずに金銭等の給付を目的とする請求で、債務者の審尋をせずに迅速に支払いを命じる制度です。
確定判決と同一の効力を有します。
ADR(裁判外紛争解決手続)
裁判手続きによらずに民事上の紛争を解決する手法です。
特に、民間事業者による和解のあっせん業務には、時効の完成猶予・訴訟手続の中止といった法的効果が与えられます。
ただし、この手続きによる和解の成立は債務名義とはならず、強制執行力もありません。
民事保全法
民事保全法は、主に仮差押えを通じて、競売の対象となる不動産の現状維持を目的とします。
(民事保全手続きは密行性・緊急性・付従性・暫定性の特徴を有しています。)
仮差押え
債権者が本案訴訟を起こす前、または起こした後、判決が確定して強制執行が可能になるまでの間に、
債務者が不動産を売却・隠匿するのを防ぐため、裁判所の決定により不動産の処分を禁止する保全処分です。
(将来の金銭執行を保全するための制度とも言い換えられます。)
この仮差押えがされている不動産に対して、後から本執行(強制競売)が申し立てられることがよくあります。
債務者は仮差押解放金を供託する事で仮差押えを解くことが可能です。
仮処分の適用
不動産の占有に関する紛争など、競売後の引渡しに関連して利用されることがあります。
特に占有移転禁止の仮処分は、競落人が不動産明渡しの訴訟を提起する際に、
債務者などが第三者に占有を移転するのを防ぎ、執行を確実にするために重要な手段です。