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民法

民法 〜担保物権〜

 

 

担保物権

 

担保物権の性質

 

・付従性

担保物権の発生には担保目的である債務の発生が必要。担保物権の目的である債権が消滅した場合担保物権も消滅する。

・物上代位性

目的物が売却、賃貸、滅失、損傷などにより、金銭等の別の価値に変わった場合でも、その価値に対して担保物権の効力が及ぶ性質のこと。

 

留置権

 

留置権とは、他人の物の占有者がその物に関して生じた債権を有する時に、その債権の弁済(被担保債権の履行)を受けるまでの間その物を留置する事ができる権利である。

Ex:自動車修理業者は代金支払いがあるまで修理した車を留置する事ができる。

※不法行為によって開始した占有に対して留置権は発生しない。

Ex:盗品の返還と引き換えに金銭を要求する事は出来ない。

留置権の要件:債権と物の牽連性・他人の物の占有者・弁済期の到来・適法行為による占有開始

 

抵当権

 

抵当権とは債務者等が占有を移転せずに、債務の担保に供した不動産について他の債務者より優先的に弁済を受ける権利である。

(物そのものではなく「交換価値」を支配する。)

抵当権の成立には「契約」が必要。(約定担保物権)

(対して留置権は要件を満たせば成立する法定担保物権

抵当権を設定する事で一般債権者に優先して弁済を受けられる。(優先弁済的効力)

 

・抵当権の効力の範囲

 付加一体物

抵当権設定後に設置された従物(Ex:畳)も付加一体物に含まれる。

(抵当権は交換価値を支配する権利であるから、不動産の付加一体物にも効力は及ぶ。)

・果実

抵当権は債務不履行があった場合、その不動産の生み出す果実にも効力は及ぶ。

(ローンで購入した賃貸アパート抵当権が設定されている場合、その賃料にも抵当権が及ぶ。)

・分離物

分離物(Ex:山林内の樹木)は目的物の交換価値の一部である為、抵当権の効力は及ぶ。

★分離物が抵当不動産上に存在し、登記による公示の衣に包まれていれば第三者へ分離物の処分を対抗する事ができる。

なぜなら抵当権は登記を対抗要件とする権利だからである。(勝手に伐木して処分するなと第三者に対して返還請求できる。)

※抵当権の侵害に当たるかは「通常の使用収益」の範囲を超えているかで判断する。

・代位物(物上代位)

抵当権はその目的物の売却、賃貸、滅失または損傷によって債務者が受けるべき金銭その他の物に対しても行使する事ができる。ただし、抵当権者はその払渡、引渡前に「差押」しなくてはならない。これは第三債務者(債務者の債務者)の二重弁済の危険を回避する目的がある。

(Ex:第三者の放火により建物が滅失した場合の損害賠償請求権)

※物上代位する場合、一般債権者の差押よりも前に抵当権設定登記している事が必要。

(同じく、第三債務者の二重弁済を回避する目的がある。)

 

抵当権侵害

 

1.第三者からの抵当権侵害

Ex:不法占拠者

抵当権は「非占有担保物権」ではあるものの、不法占拠者がいては「目的物の交換価値」の実現が妨げられ、抵当権者の「優先弁済請求権」の行使が困難となる場合は明渡請求が認められている。

★占有権原がある占拠者がいる場合、競売手続の妨害等の目的(主観的要件)と、その占有により抵当不動産の交換価値の実現が妨げられ、優先弁済請求権の行使が困難となる状況(客観的要件)が認められる場合は抵当権侵害の主張が可能となります。

 

2.抵当権設定者からの抵当権侵害

Ex:抵当権設定者が抵当不動産の取り壊しを始めた場合

正当な使用収益のみを抵当権設定者に対して許すのが抵当権設定の効力なので、取り壊しは正当な使用収益を超える行為であり、当然取り壊しの「差止請求」ができる。また、抵当不動産が取り壊される事で抵当権者は「期限の利益」を失う。

(貸金債権から発生する予定だった利子を取れなくなる。)

その為抵当権者は「貸金債権の請求」が出来るとともに、抵当不動産に対する抵当権実行ができる。

その他、不法行為に基づく損害賠償請求、担保目的物の欠損による「増担保請求」が認められる事例もある。

※物上代位による解決は差押を経て行う必要がある為抵当権者への配慮に欠ける。よって抵当権者が抵当権設定者に対して各種請求が出来ると解するのが妥当であると考える。

 

抵当権と用益権

 

・法定地上権

Ex:土地にのみ抵当権が実行された場合

抵当権設定時に土地建物の所有者が同一であり、抵当権の実行によって土地建物の所有者が異なる状態になった場合は自動的に建物に法定地上権が発生する。(地上権設定契約を省略し、建物所有者は保護されるという事)

 成立要件

1.抵当権設定当時に土地建物の所有者が同一である事

2.抵当権設定当時に建物が存在している事

3.土地、建物の一方あるいは双方に抵当権が設定された事

4.抵当権実行後土地建物の所有者が別々になった事

※判例は成立要件を前提とするものの、ステークホルダーの公平性を鑑みた結果となっている場合が多い事に注意。

 

・譲渡担保物権

≒抵当権

抵当権と違い所有権の移転を伴う担保物権(所有権的構成)という考え方と、単なる交換価値の支配(担保権的構成)という考え方がある。

 

◆論点◆

 

1.二重譲渡の際に引渡しを受けた者は移転登記済の者に留置権を主張できるか

引渡しを受けた者は移転登記済の者に対抗関係で敗れた結果、売主に対して債務不履行に基づく損害賠償を請求できる。そこで、二重譲渡で劣後した譲受人が、損害賠償請求権を被担保債権とする留置権を第二の買主に対して主張できるかが問題となる。

この点、留置権の成立を否定すべきと解する。

なぜなら、留置権の趣旨は物の引渡しを拒絶することにより債務者に債務の履行を間接的に強制する点にあるが、第一の買主が第二の買主に対して目的物の引渡しを拒んでも、売主の損害賠償請求債務を間接的に強制することにはならず、物と債権との間に牽連性を認めることはできないからである。

したがって、引渡しを受けた者は留置権を主張して移転登記済の者による明渡請求を拒むことはできない。

 

2.造作買取請求権の行使に際し留置権を主張できるか

造作買取請求による代金債権を被担保債権として建物を留置することができるかが問題となる。

この点、造作買取請求による代金債権を被担保債権として建物を留置することはできないと解する。

なぜなら、造作代金債権はあくまで造作に関して生じた債権であって、建物に関して生じた債権ではなく、造作代金と建物では価格の差が大きいため建物の留置を認めるのは公平でないからである。

したがって、造作買取請求による代金債権を被担保債権として建物を留置することはできない。

 

3.借地契約満了時の建物買取請求権行使に際し留置権を主張できるか

建物買取請求権による代金債権を被担保債権として留置権を主張し、土地の明渡を拒むことができるかが問題となる。

この点、建物買取請求権に基づく代金債権は建物に関して生じた債権であって、土地に関して生じた債権ではないため、建物については留置権が認められるものの、土地については認められないはずである。しかし、敷地について留置を認めなければ建物の留置をすることができなくなってしまい、留置権制度の趣旨である公平の理念に反する結果となる。そこで、建物留置権の反射的効力として、土地の明渡を拒めると解する。

したがって、建物代金債権を被担保債権とする建物留置権の反射的効力として、土地の明渡請求を拒める。

 

4.滞納により契約解除後に居座った賃借人が支出した修繕費の請求権(必要費償還請求権)を被担保債権として留置権を主張できるか

賃貸借契約の解除後に賃借人が目的物に対し必要費を支出した場合、この必要費償還請求権を被担保債権とした留置権が成立するかが問題となる。

この点、占有の途中で権原を喪失した場合にも、295条2項(留置権は占有が不法行為によって始まった場合には適用しない。)の類推適用により、留置権は成立しないと解する。

なぜなら、民法は占有が不法行為によって始まった場合に、公平の観点から留置権の成立を否定しているが、占有の途中で権原を喪失した場合も、公平の観点から留置権の成立を否定すべきだからである。

したがって、賃借人は留置権を主張できない。

 

5.抵当権設定後に生じた従物に抵当権の効力は及ぶか

抵当権の効力は抵当不動産に付加して一体となっている物(付加一体物)に及ぶ。(370条)では、抵当権設定後に抵当目的物に設置された従物に抵当権の効力が及ぶか。従物は主物と物理的一体性までは有しないため、付加一体物にあたるかが問題となる。

この点、従物は付加一体物にあたり、その設置時期を問わず抵当権の効力が及ぶと解する。

なぜなら、抵当権は目的物の交換価値を把握する価値権たる性質を有するものである以上、付加一体物には物理的一体性を有するものだけでなく、価値的、経済的一体性を有するものを含むと考えられる。とするならば、主物と価値的、経済的一体性を有する従物にも抵当権の効力が及ぶとするのが、370条の趣旨に合致するからである。

したがって、抵当権設定後に搬入、設置された従物に対しても、抵当権の効力は及ぶ。

 

6.借地上の建物に設定された抵当権は借地権にも効力が及ぶか

借地上の建物に設定された抵当権は借地権にも効力が及ぶかが問題となる。

この点、借地権は権利であり、370条の付加一体物にあたらないため、370条を直接適用することはできない。

しかし、抵当権は目的物の交換価値を把握する価値権たる性質を有する付加一体物には物理的一体性を有するものだけでなく、価値的、経済的一体性を有するものを含むと考えられる。

つまり借地上の建物を所有するには土地利用権が不可欠である点で、借地権は建物と価値的、経済的に一体といえ、370条の趣旨があてはまる。それゆえ、370条の類推適用により、従たる権利である借地権にも抵当権の効力が及ぶと解する。

したがって、借地上の建物に設定された抵当権は借地権にも効力が及ぶ。

 

7.抵当権を設定した担保物件のうち、目的物の分離物のうち通常の用益を超える部分を売却された場合、抵当権者は返還請求できるか

抵当目的物の分離物が第三者に売却された場合、まず、その分離物についても抵当権の効力が及ぶのかが問題となる。

この点、分離物は目的物の交換価値の一部であるため、抵当権の効力は及ぶと解する。

次に、売却された分離物に対する抵当権の効力を第三者に対抗できるかが問題となる。

この点、分離物が担保物件上に存在し、登記による公示の衣に包まれている限りにおいて、抵当権の効力を第三者に対抗することができるものの、売却によって物理的に移転が済んでいる場合は第三者に対抗できないと解する。(既に担保物件上に存在していないため)

なぜなら、抵当権は登記を対抗要件とする権利であり、分離物が担保物件上に存在し、登記による公示の衣に包まれている限りにおいてだけその上の抵当権の効力を第三者に対抗しうるからである。

したがって抵当権者は抵当権を設定した担保物件のうち、目的物の分離物のうち通常の用益を超える部分を売却された場合、返還請求することができない。

 

8.抵当権設定後に抵当権設定者が担保物件を取り壊し始めた場合、抵当権者はいかなる請求が可能か

まず抵当権者は抵当権に基づいて取り壊しの差止めを請求できるか。抵当権の非占有担保物権という性格上それは可能なのかが問題となる。

この点、設定者が正当な使用収益以外の理由により目的物の交換価値を減少させている場合には、抵当権の実効性確保の見地から抵当権者は当該行為の差止めを請求できると解する。

取り壊しは正当な使用収益とは言えず、目的物の担保価値を減少させている。よって、抵当権者は抵当権に基づいて取り壊しの差止めを請求できる。

次に、設定者は担保である物件を壊し始めたのであるから、期限の利益(137条2項)を失う。よって抵当権者は直ちに貸金債権の請求ができるほか、抵当権を実行できる。

さらに、設定者の取り壊し行為によって貸金債権を満足に受けられなくなった場合には損害(709条)が発生しているので、損害賠償請求をなしえる。

加えて、抵当権者は設定者に対して、債務者に責めのある事由で担保価値が下落した場合には、特約がなくても信義則上、増担保請求ができる。

自ら担保物件を取り壊し始めたのであるから、債務者に責めのある事由で担保価値が下落した場合に該当するので、抵当権者は新たな担保の提供を請求できる。

 

9.抵当権設定前から担保物件に居住している賃借人が建物を取り壊し始めた場合、抵当権者は抵当権実行に先立って損害賠償請求をなしうるか

抵当権者は賃借人に対して損害御賠償請求をなしうるか。すなわち、抵当権侵害に基づく損害賠償請求(709条)が認められるかが問題となる。

この点、抵当権侵害の場合でも損害が発生していれば、損害の公平な分担という不法行為制度の目的に照らし、損害賠償請求は認められると解する。

そして、損害として認められるためには、担保目的物の価値が減少しただけでは足りず、価値減少のために被担保債権に弁済を受け得なくなったことを要すると解する。

では、損害が発生した場合、賃貸人ではなく抵当権者自ら賃借人へ損害賠償請求をしうるか。この場合抵当権設定者も所有権に基づき損害賠償請求権を有するので、抵当権者も当該損害賠償請求権に物上代位すれば足りると思えることから問題となる。

この点、物上代位の行使については差押えという面倒な手続きが必要なため、抵当権者保護の見地から抵当権者も自ら損害賠償請求しうると解する。

さらに、抵当権実行前であっても抵当権者は損害賠償請求をなしえるか。損害額の算定が困難と思えることから問題となる。

この点、抵当権実行前であっても弁済期後であれば未弁済額が確定するので、損害額の算定は困難とは言えないため、損害賠償請求をなしうると解する。

 

10.抵当不動産の不法占拠者である第三者に対して抵当権者は抵当権に基づいて直接明渡を請求できるか

まず、抵当権者は抵当権に基づいて明渡請求をなしえるか。抵当権は非占有担保物権であり、抵当権者は占有権を持たないため問題となる。

この点、第三者の不法占有により目的物の交換価値の実現が妨げられ、抵当権者の優先弁済請求権の行使が困難となる場合には、明渡請求が認められると解する。

次に、抵当権者は第三者に対し直接自己への抵当不動産の明渡を請求できるか。

この点、抵当権設定者において、抵当権に対する侵害が生じないように抵当不動産を維持管理することが期待できない場合には、抵当権者は第三者に対し直接事故への抵当不動産の明渡を請求することができると解する。

なぜなら、この場合に自己への直接の明渡を認めなければ抵当不動産の交換価値が妨げられ、抵当権者の優先弁済請求権の行使が困難となる恐れがあるからである。

したがって、抵当不動産の不法占拠者である第三者に対して抵当権者は、抵当権に対する侵害が生じないように抵当不動産を維持管理することが期待できない場合には抵当権に基づいて直接明渡を請求できる。

 

11.抵当権設定者が債務の弁済を怠っている場合、抵当権者は抵当権設定後に低廉な賃料で入居した賃借人に対し、直接明渡請求できるか

まず、抵当権者は抵当権に基づいて明渡請求をなしえるか。抵当権は非占有担保物権であり、抵当権者は占有権を持たないため問題となる。

この点、占有権原の設定に抵当権の実行としての競売手続きを妨害する行為が認められ(主観的要件)、その占有により抵当不動産の交換価値の実現が妨げられ、抵当権者の優先弁済請求権の行使が困難となるような状態があるときは(客観的要件)、抵当権者は当該占有者に対し、抵当権に基づく妨害排除請求として明渡請求できると解する。

なぜなら抵当不動産の所有者(抵当権設定者)は抵当不動産を使用収益するにあたり、抵当不動産を適切に維持管理することが予定されており、抵当権の実行を妨害するような占有権原の設定は許されないからである。

では、抵当権者の請求が認められる場合、抵当権者は賃借人に対し直接自己への抵当不動産の明渡を請求できるか。

この点、抵当権設定者において

抵当権に対する侵害が生じないように抵当不動産を維持管理することが期待できない場合には、抵当権者は第三者に対し直接事故への抵当不動産の明渡を請求することができると解する。

なぜなら、この場合に自己への直接の明渡を認めなければ抵当不動産の交換価値が妨げられ、抵当権者の優先弁済請求権の行使が困難となる恐れがあるからである。

本件の場合は低廉な賃料で賃貸した抵当権設定者について執行妨害目的が認められるので、抵当不動産を維持管理することが期待できない。

したがって抵当権者は賃借人に対し抵当権に基づいて直接明渡を請求できる。

 

12.抵当権に基づいて売買代金に対して物上代位できるか

抵当権者は抵当権者が担保物件を売却した際の代金について物上代位できるか、抵当権は登記がなされていれば目的物が第三者に譲渡されても目的物に付着していく。(追及効)よって物上代位する必要が無いのではないかかが問題となる。

この点、目的物の売買代金債権に対して物上代位できると解する。

なぜなら、物上代位を認める趣旨は、目的物の交換価値が具体化したときにその効力を及ぼすという点にあり、担保物件の売却代金はまさに交換価値の具体化であるといえ、売却による金銭等に物上代位できるとする条文の文言(304条)にも合致するからである。

したがって、抵当権者は抵当権設定者の売買代金債権に物上代位できる。

 

13.抵当権に基づいて保険金請求権に対し物上代位できるか

抵当権者は抵当権設定者の保険金請求権に対して物上代位できるか。保険金請求権が目的物の滅失自体によってではなく、保険契約に基づいて発生するものであることから問題となる。

この点、保険金請求権に対し物上代位できると解する。

なぜなら、物上代位を認める趣旨は、目的物の交換価値が具体化したときにその効力を及ぼすという点にあり、保険金請求権は目的物との経済的関連性を有しており、実質的に担保物件の交換価値に代わるものといえるからである。

したがって、抵当権設定者は抵当権者の保険金請求権に物上代位できる。

 

14.抵当権に基づいて、低廉な賃料で締結された賃貸借契約によって新たに締結された転貸借契約における転貸賃料債権に対し物上代位できるか

抵当権者は転貸賃料債権に物上代位できるか。372条の準用する304条1項の「債務者」に抵当不動産の賃借人(転借人)が含まれるかが問題となる。

この点、原則として72条の準用する304条1項の「債務者」に抵当不動産の賃借人(転借人)は含まれず、抵当権設定者は転貸賃料債権に対して物上代位することはできないと解する。

なぜなら、抵当不動産の所有者は被担保債権の履行について不動産をもって物的責任を負担するものであるのに対し、抵当不動産の賃借人はこのような責任を負担するものではなく、自己に属する債権を被担保債権に弁済に供されるべき立場にないからである。また、転貸賃料債権に対する物上代位を認めると、抵当不動産の賃借人は転貸賃料を受領できないにもかかわらず、不動産所有者に対しては賃料を支払わなければならないため、賃借人に対して酷だからである。

もっとも、抵当不動産の所有者の取得すべき賃料を意図的に減少させ、抵当権の行使を妨げるために賃貸借を仮装し、転貸借を作出したものであるなど、抵当不動産の賃借人を抵当不動産の所有者と同視することを相当とする場合は、転貸賃料債権に対して物上代位できると解する。

 

15.一般債権者が抵当権設定者の保険金請求権を差し押さえた場合、抵当権者は物上代位できるか

一般債権者が保険金請求権を差し押さえた後でも抵当権者は物上代位できるか。すなわち、一般債権者による差押えが304条1項の払渡しまたは引渡しに含まれるかが問題となる。

この点、一般債権者による差押えは304条1項の払渡しまたは差押えには含まれず、抵当権設定登記が一般債権者の差押えの前になされていれば、抵当権者は物上代位することができると解する。

なぜなら、物上代位に差押えを要求した趣旨は、債務者(第三者)が誰に弁済をすればよいのかを明らかにすることにより、第三債務者の二重弁済の危険を回避して、第三債務者を保護する点にある。

とすれば、抵当権者が登記により一般債権者に対抗することができれば、一般債権者の差押えに遅れて物上代位のための差押えをしたとしても、第三債務者は不測の損害を負わないからである。また、抵当権の効力が物上代位の目的債権に及ぶことは抵当権設定登記により公示されており、一般債権者にとっても酷ではない。

したがって、抵当権者は、当当券設定登記を一般債権者の差押え前にしていれば、保険金請求権に対し物上代位することができる。

 

16.抵当権設定者の有する賃料債権を第三者へ譲渡した場合、抵当権者はその賃料債権に対して物上代位できるか

賃貸人が賃料債権を第三者に譲渡した後でも抵当権者は物上代位できるか。すなわち、債権譲渡が304条1項の払渡しまたは引渡しに含まれるかが問題となる。

この点、債権譲渡は304条1項の払渡しまたは引渡しに含まれず、抵当権者が当該債権譲渡の第三者に対する対抗要件具備の前に抵当権の設定登記がされていれば、抵当権者は物上代位することができると解する。

なぜなら、物上代位に差押えを要求した趣旨は、債務者が誰に弁済すれば良いのかを明らかにすることにより、第三債務者の二重弁済の危険を回避して、保護する点にある。とすれば、抵当権者が登記により債権の譲受人に対抗することができるならば、債権譲渡の第三者に対する対抗要件の具備に遅れて物上代位の差押えをしても、第三債務者は不測の損害を負わないからである。

また、このような解釈であっても、抵当権の効力が物上代位の目的債権についても及ぶことは抵当権設定登記によって公示されているため、債権の譲受人にとって酷ではないからである。

したがって抵当権者は債権譲渡の前に抵当権設定登記を終えていれば、第三者に譲渡された賃料債権に対して物上代位することができる。

 

17.賃借人と抵当権設定者である賃貸人の間で相殺の合意がなされていた場合、抵当権者はその賃料債権に物上代位できるか

抵当権者は物上代位に基づいて賃借人に賃料の支払を求めることはできるか。すなわち、賃借人は賃貸人である抵当権設定者との間で合意されていた相殺によって賃料債務の消滅を対抗できるかが問題となる。

この点、賃借人は抵当権設定登記の後に取得した賃貸人に対する債権を自働債権とする相殺合意の効力を抵当権者に対抗することはできないと解する。

なぜなら、抵当権の効力が賃料債権についても及ぶことは抵当権設定登記により公示されているから、抵当権設定登記の後に取得した賃貸人に対する債権を自働債権とする相殺への期待を、抵当権者による物上代位の利益よりも優先させるべきではないからである。

したがって抵当権者は抵当権設定登記の後に発生した賃料債務につき、物上代位に基づいて賃借人に賃料の支払を求めることができる。

 

18.法定地上権の趣旨と成立要件

民法は法定地上権について定めているが、法定地上権の制度趣旨は何か。

この点、民法は土地と建物を別個の取引客体としつつ、原則として自己借地権の設定を否定している。そのため、抵当権設定時に土地と建物の所有者が同一人である場合、その後の抵当権の実行により土地と建物の所有者が別人になると、敷地利用権が存せず、建物が存続できなくなるおそれがある。このような結論は社会経済上不利益であるばかりか、抵当権設定当事者の意思にも反することになる。

そこで、民法は建物の存続を図るため、法定地上権を設けたのである。

このような趣旨からすると、法定地上権の成立要件は抵当権設定当時、建物が存在し、土地と建物が同一人の所有に属し、土地と建物の一方あるいは双方に抵当権が設定され、抵当権実行後土地と建物が別人の所有になること、と考えられる。

 

19.抵当権設定当時の状況が更地の場合

抵当権設定当時、土地が更地であった場合に法定地上権は成立するか。法定地上権の成立要件の一つに抵当権設定当時、建物が存在していることが求められることから問題となる。

この点、更地に抵当権を設定した後、建物が築造されても法定地上権は成立しないと解する。

なぜなら、更地とそうでない土地とでは、担保価値に著しい差があるのが実情であり、もし法定地上権の成立を認めると更地として担保価値を評価した抵当権者が不測の損害を被る可能性があるからである。

したがって、抵当権設定当時、土地が更地であった場合に法定地上権は成立しない。

 

20.抵当権設定当時の状況が更地で、建物の築造が予定されていた場合

更地に抵当権を設定した場合、法定地上権は成立しないが、建物の築造が予定されており、それを抵当権者が知っていた場合でも法定地上権は成立しないのか。法定地上権の成立要件の一つに抵当権設定当時、建物が存在していることが求められることから問題となる。

この点、抵当権者が建物の築造を予期していた場合でも、法定地上権は成立しないと解する。

なぜなら、抵当権者が築造を予期していたとしても、抵当権者の主観によって法定地上権の成否を決定することは競売制度の画一性を害し、経絡した買受人の利益を損なうおそれがあるからである。

したがって、抵当権者が建物の築造を予期していた場合でも、法定地上権は成立しない。

 

21.再建築建物に対しても、法定地上権は成立するか

抵当権設定当時に存在した建物と抵当権実行時に存在している建物が異なる場合、法定地上権は成立するか。法定地上権の成立要件の一つに抵当権設定当時、建物が存在していることが求められることから問題となる。

この点、法定地上権は成立すると解する。

なぜなら、抵当権設定当時において、建物が存在している以上、抵当権者は法定地上権の成立を予期できるからである。

ただし、抵当権者は旧建物を基準に土地の担保価値を評価しているため、法定地上権の内容は原則として旧建物を基準とすべきである。

したがって、法定地上権の成立要件を満たし、旧建物を基準とする法定地上権が成立する。

 

22.土地建物に共同抵当権の設定を受けた後、建物を再築し、競落された場合

土地及び建物に共同抵当権を設定した後、建物が再築された場合、法定地上権は成立するか。法定地上権の成立要件の一つに抵当権設定当時、建物が存在していることが求められることから問題となる。

この点、土地抵当権者が再建築建物について改めて土地の抵当権と同順位の抵当権の設定を受ける等の特別な事情がない限り、法定地上権は成立しないと解する。

なぜなら、土地及び建物の共同抵当権者は土地及び建物全体の価値を把握していると考えられるが、法定地上権の成立を認めると、旧建物の滅失により建物の抵当権を失うのみならず、土地についても法定地上権を除いた価値しか把握できなくなるからである。

したがって、土地抵当権者が再建築建物について改めて土地の抵当権と同順位の抵当権の設定を受ける等の特別な事情がない限り、法定地上権は成立しない。

 

23.建物への抵当権設定当時、土地と建物が別人に帰属していた(借地権に設定し、後に所有権となった)場合

抵当権設定当時、土地と建物の所有者が異なっていたが、実行時には同一人に帰属していた場合、法定地上権は成立するか。法定地上権の成立要件の一つに抵当権設定当時、建物が存在していることが求められることから問題となる。

この点、法定地上権は成立しないと解する。

なぜなら、抵当権の効力は借地上の建物と価値的、経済的一体性を有する借地権にも及ぶので、借地権者が土地所有権を取得した場合でも、混同の例外(179条1項)により借地権は消滅せず存続するため、あえて法定地上権を成立させる必要が無いからである。

したがって、法定地上権は成立しない。

 

24.建物一番抵当権設定時は借地権、建物二番抵当権設定時に所有権となっていた場合

一番抵当権設定当時は建物と土地の所有者が異なっていたが、二番抵当権設定時には建物と土地の所有者が同一人に属していた上で、二番抵当権が実行された場合、法定地上権は成立するか。法定地上権の成立要件の一つに抵当権設定当時、建物が存在していることが求められることから問題となる。

この点、法定地上権は成立すると解する。

なぜなら、この場合には法定地上権の成立を認めても、建物の交換価値が下落しない点で、一番抵当権者に不測の損害は生じず、二番抵当権者も法定地上権の成立を予期した上で建物の担保価値を評価しているはずだからである。

したがって、法定地上権は成立する。

 

25.土地一番抵当権設定時は借地権、土地二番抵当権設定時に所有権となっていた場合

一番抵当権設定当時は建物と土地の所有者が異なっていたが、二番抵当権設定時には建物と土地の所有者が同一人に属していた上で、二番抵当権が実行された場合、法定地上権は成立するか。法定地上権の成立要件の一つに抵当権設定当時、建物が存在していることが求められることから問題となる。

この点、法定地上権は成立しないと解する。

なぜなら、このような場合に法定地上権の成立を認めてしまうと、法定地上権の負担の無いものとして土地の担保価値を評価した一番抵当権者に不測の損害が生じるからである。

したがって、法定地上権は成立しない。

 

26.土地一番抵当権設定時は借地権、土地二番抵当権設定時に所有権となった後一番抵当権が抹消され、二番抵当権が実行された場合

一番抵当権設定当時は建物と土地の所有者が異なっていたが、二番抵当権設定時には建物と土地の所有者が同一人に属していた上で、一番抵当権の抹消後に二番抵当権が実行された場合、法定地上権は成立するか。法定地上権の成立要件の一つに抵当権設定当時、建物が存在していることが求められることから問題となる。

この点、法定地上権は成立すると解する。

なぜなら、後順位抵当権者に不測の損害を与えるものとはいえず、後順位抵当権者は先順位の抵当権が抹消されることによる順位上昇の利益と、法定地上権成立の不利益を考慮して担保価値を把握すべきであったといえるからである。

したがって、法定地上権は成立する。

 

27.借地上の建物のみを譲渡した後に抵当権が実行された場合

建物と借地権を譲り受けた後、前建物所有者が設定した抵当権が実行された場合、法定地上権は成立するか。法定地上権の成立要件の一つに抵当権設定当時、建物が存在していることが求められることから問題となる。

この点、法定地上権は成立すると解する。

なぜなら、抵当権設定登記後、建物譲渡の際に設定された借地権は抵当権者、競落人に対抗できないため、法定地上権の成立を認めることで建物所有者を保護する必要があるからである。

また、抵当権設定当時に法定地上権の成立要件を満たしている以上、抵当権者は法定地上権の成立を予期できる状態にあり、不測の損害を被ることになるとはいえないからである。

したがって、法定地上権は成立する。

 

28.共有土地上の単独所有建物に抵当権が実行された場合

建物を単独所有している者を基準とすれば法定地上権の成立要件の一つである抵当権設定当時、土地と建物が同一人の所有に属していることを満たすが、土地のみを所有している者を基準とすると、この要件を満たさないことになる。このような共有土地上の建物であっても法定地上権は成立するかが問題となる。

この点、法定地上権は成立しないと解する。

なぜなら、もし法定地上権の成立を認めると、抵当権の設定に関与していない他の土地共有者に法定地上権の負担という不測の損害を与えることになるからである。

したがって、法定地上権は成立しない。

 

29.譲渡担保権者は不法占拠者へ妨害排除請求できるか

譲渡担保権者と譲渡担保権設定者(所有者)のどちらが不法占拠者に対して妨害排除請求できるか。すなわち、譲渡担保権を設定した場合、目的物の所有権は誰に帰属するかが問題となる。

この点、目的物の所有権は譲渡担保権設定者にあると解する。

なぜなら、譲渡担保権を設定した当事者の合理的意思は、目的物の所有権の移転にあるのではなく、担保権の設定にあるので、譲渡担保権者は担保権を取得するに過ぎないと考えられるからである。

したがって、譲渡担保権設定者が不法占拠者に対して妨害排除請求できる。

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