物権
物権:物権とは特定の物を直接支配して利益を受ける排他的な権利である。
債権:債権とは債権者が債務者に対して一定の給付(行為)を要求する権利である。
※債権は債務者にしか請求できない(相対効)一方、物権は排他性を有するので第三者に対しても主張できる。(絶対効)
※物権は法律に定める物以外を自由に創設する事は出来ないが、債権は自由に創設可能(契約自由の原則)
占有権:事実状態に基づいて認められる権利。(盗品でも認められる。)
本権 :占有権以外の権利で、占有権を裏付けるための権利と言い換えられる。
所有権:絶対効を持つ権利。
制限物権:所有権を制限する権利。用益:地上権、地役権等 担保:抵当権、質権等
・主物と従物
87条1項
物の所有者がその物(主物)の常用に供するため自己の所有に属する他の物(従物)をこれに付属させた時はその他物を従物とする。
Ex:主物→家屋 従物→畳 (主物と従物は物理的には別個独立である。)
2項
従物は主物の処分に従う。(Ex:家屋の譲渡時に畳にだけ所有権を残す事は出来ない。)
・物権の効力
優先的効力:両立し得ない物権相互間では先に成立した物権が優先される。また、債権の目的となっている物に物権が成立する場合は物権を優先する。(所有権>賃借権)
占有保持の訴え:盗品を盗まれた場合でも、泥棒は占有の訴えを提起する事ができる。
★海賊から盗んだ財宝を占有しているナミは海軍の押収に対して占有保持の訴えを提起していました。
(198条)
占有保全の訴え:占有妨害の恐れがある場合は妨害の予防、損害賠償の担保を請求できる。
(199条)
妨害排除請求権・返還請求権・妨害予防請求権
・不動産物権変動の対抗要件
176条
物権変動は意思表示のみで足りる。
177条
しかし、第三者に対抗するためには「登記」が必要。(公示の原則)
(動産の場合は「引渡」が必要。)
※登記に公信力は無いので、動産の引渡についてのみ公信力が認められる。(公信の原則)
※例えば二重譲渡があった場合、先に登記を具備した者が所有権を取得する。登記を取得しない限り完全な物権変動の効力を生じない
(不完全物権変動説)→買主が未登記である事を主張する事に利益のある第三者が存在する。(自由競争原理から。)
未登記の主張利益を有する第三者
単なる悪意者(先に登記を具備すれば所有権を取得できると知っているだけ)、賃借人
未登記の主張利益を有しない第三者(未登記で対抗できる。)
無権利者、不法行為者、登記法第5条の第三者、背信的悪意者
※背信的悪意者とは所有権の取得目的のみならず買主自体を困らせる目的を持っている悪意者。
→自由競争の原理から逸脱している為、信義則上、主張利益を有しない。
★背信的悪意者からの転得者は所有権を取得できます。(背信性は承継しないと解する為。)
・登記が必要とされる物権変動
取消前の第三者
詐欺による取消が行われる前に先に登記を具備する事で対抗できる。
取消後の第三者
取消には遡及効がある為(初めから無効)、原則対抗はできないが善意の第三者は保護されるべきであるので先に登記を具備した方が(所有者VS第三者)所有権を取得すると解する。(二重譲渡と同様に扱うという事。)→物的支配を相争う関係
※これで第三者が取得したとしても、取消後即登記しない真の権利者にも落ち度があると考える。
解除前の第三者
契約解除が行われる前に先に登記を具備する事で対抗できる。
解除後の第三者
契約解除後の第三者は取消同様二重譲渡と同様に扱う為、登記を具備した方が(所有者VS第三者)所有権を取得すると解する。
時効完成前の第三者
結局時効完成前の出来事なので、第三者から時効取得する構図になるので登記なしで時効完成による所有権取得の権利の主張が可能。
★時効取得者と原権利者の関係は売買契約の関係と同様、登記なしで権利の主張が可能。(物権変動の当事者類似の関係に立つ。)
時効完成後の第三者
やはり登記を具備しない限り、時効取得者は時効完成後の第三者に対抗できない。
・相続と登記
単独相続
相続財産を「一人」が相続した場合、被相続人からの譲受人は登記なしで相続人に対抗する事ができる。(譲渡債務も相続すると解する。)
共同相続
相続財産が「共有」に属している場合は各々一個の所有権を持っている為、仮に共有者の一人が単独で登記したとしても、自己の持分については登記なしで対抗する事ができる。
※法定相続分を超える部分については登記なしで対抗する事は出来ない。
※特定財産承継遺言がある場合でも「超える部分」は登記なしで対抗する事は出来ない。
※法定相続分を超える持分が第三者に譲渡された場合は登記なしで対抗出来る。
★遺産分割は相続開始時に遡って(遡及効)効力を生じます。
・相続放棄
相続放棄をすると、はじめから相続は無かったものとみなされる。この場合、相続放棄をしなかった相続人は、相続放棄をした者の利害関係人等の第三者に登記なしで対抗出来る。
Ex:相続放棄をした相続人の債権者が放棄した相続財産を差し押さえた場合、他の相続人はその債権者に登記なしで対抗出来る。
・占有権
自主占有:所有の意思を持って占有する事。
他主占有:自主占有以外の占有(Ex:賃貸借)
★占有権の特定承継人は、前主の占有権を承継すると同時に、他面において自ら開始した新たな占有についても占有権を取得する。(占有の二面性)
→前主が善意無過失で占有を開始したのであれば悪意の特定承継人は10年で時効取得が可能である。(時効は最初の占有者の主観的要件によって期間が決まるという事。)
※他主占有の占有権を相続し、相続人が所有の意思を持って占有を開始した場合も時効取得が可能となる。(新たな権原)
・所有権
所有権とは法令の制限内において自由にその物の使用、収益、処分をする事が出来る権利。
物権的請求権とは、物権の円満な支配状態が妨害され、またはその恐れのある場合に、あるべき状態の回復、または妨害の予防を求める権利である。
民法上、物権的請求権を正面から認める規定はないが、解釈上認められると解する。なぜなら、物権とは特定の物を直接支配して利益を受ける排他的な権利であり、権利性の弱い占有権にすら占有訴権が認められる以上、他の物権についても同様の権利が認められると考えるべきだからである。
そして、物権的請求権としてはまず妨害排除請求権が挙げられる。これは、物権者が物権内容の実現を妨げられている場合に、その妨害者に対して、妨害の排除を請求できる権利をいう。
次に、妨害予防請求権が挙げられる。これは、将来物権侵害の危険性がある場合に、物権者がその危険性を有する者に予防措置を請求できる権利をいう。
さらに、返還請求権が挙げられる。これは、物権者が目的物に関する占有を奪われている場合に、その占有者に対して目的物の返還を請求できる権利をいう。
土地所有者が妨害排除請求をする場合に不法占拠の建物に対する登記のみを有する者を相手方としうるかが問題となる。
この点、物権的請求権は、物権の円満な支配が妨げられた場合にその回復を求めるものであるから、原則として建物収去、土地明渡請求の相手方は実質的な所有者と解される。
しかし、土地所有者が妨害排除請求をするにあたって、常に建物の実質的所有者を探し出さなければならないとすると、土地所有者にとって酷である。また、登記名義人も登記を放置していたという帰責性があり、妨害排除請求されてもやむをえない立場にある。そこで、土地所有者と建物譲渡人とは、建物譲渡による所有権の喪失を否定してその帰属を争う点で、あたかも建物についての物権変動における対向関係類似の関係に立つので、177条を類推適用して、建物譲渡人は登記を有する限り、建物所有権の喪失を土地所有者に対抗できないと解する。
したがって、建物所有者は依然として登記を有しているため、建物所有権の喪失を土地所有者へ対抗できず、土地所有者は所有権に基づいて、建物登記名義人に対して建物の収去を求めることができる。
譲受人は背信的悪意者に対して登記なくして所有権を主張できるか。本来、所有権の取得を第三者に対抗するためには登記が必要であるが、このような背信的悪意者も177条の第三者に含まれるかが問題となる。
この点、第三者とは当事者及びその包括承継人以外の者で、登記が無いことを主張するにつき正当の利益を有する者と解する。
なぜなら、177条の趣旨は、自由競争の原理の下、物権変動を公示することにより同一の不動産につき正当な利益を有する第三者に不測の損害を与えないようにする点にあり、正当な利益を有しない者へは同条の保護に値しないからである。そして、自由競争の範囲内にある単なる悪意者であれば正当の利益を有する者であり、第三者に含まれるが、自由競争を逸脱した背信的悪意者は、信義則上正当な利益を有する者にはあたらず、第三者に含まれない。
したがって、未登記の譲受人は登記なくして背信的悪意者に所有権を主張できる。
所有者は登記なくして所有権を主張できるか。背信的悪意者が第三者(177条)に含まれないとしても、その背信的悪意者からの転得者も第三者に含まれないのかが問題となる。
この点、まず背信的悪意者は所有権を主張する者との間に未登記であることを主張する正当の利益が無いだけであり、譲渡人から所有権を取得したことに変わりはなく、背信的悪意者からの転得者も所有権を取得できると解する。
次に、転得者は背信的悪意者から所有権を取得しても、その背信性は承継しないと解する。なぜなら、背信性は所有権を主張する者との間で個別具体的に判断する事情であるので、相対的に判断すべきだからである。
したがって、善意の転得者は、未登記の所有者との関係で登記が無いことを主張する正当な利益を有するものといえるので、第三者にあたり、所有者は登記なくして善意の転得者に対抗できない。
所有者は登記なくして所有権を主張できるか。善意の第三者から譲り受けた背信的悪意者は177条の第三者にあたるかが問題となる。
この点、背信的悪意者かどうかは相対的に決するのが妥当と解する。
なぜなら、背信性は所有権を主張する者との間で個別具体的に判断する事情だからである。
したがって、本件の場合、背信的悪意者は所有者との関係では第三者にあたらないといえるため、所有者は登記なくして所有権を主張できる。
所有者の取消により、相手方は遡及的に無権利者となり、登記に公信力がなく、かつ96条3項の第三者とは取消前の第三者をいう。よって登記済であっても、転得者は所有権を取得できないのが原則である。しかし、この原則を貫くと、転得した第三者の不動産取引の安全が著しく害され、妥当でない。そこで、このような第三者をいかに保護すべきか、その法律構成が問題となる。
この点、取消権者と取消後の第三者との関係を対抗問題と考えて、先に登記を備えた者が所有権を他方に対抗できると解する。
なぜなら、取消の遡及効は法的な擬制であり、取り消されるまでは取り消しうる行為も有効なのだから、取消の時点で復帰的物権変動があったかのように扱うことができる。つまり、この取消によって相手方から取消権者及び第三者へ二重譲渡があったものと同様に考えられる。
しかも、取消権者は取消後は直ちにその旨を登記することができたのだから、これを怠った帰責性があることは否めない。
したがって、所有者は登記をしていないため転得した登記済の第三者に移転登記の抹消を請求できない。
債務不履行を理由に所有者から適法に解除された場合、相手方は当初から無権利者であったことになり登記に公信力がなく、しかも545条1項ただし書の第三者とは、解除前の第三者をいい、解除後の第三者は含まれない以上、転得者はたとえ善意でも所有権を取得できないのが原則である。しかし、この原則を貫くと、転得した第三者の不動産取引の安全が著しく害され、妥当でない。そこで、このような第三者をいかに保護すべきか、その法律構成が問題となる。
この点、解除権者と解除後の第三者との関係を対抗問題と考えて、先に登記を備えた者が所有権を他方に対抗できると解する。
なぜなら、解除の遡及効は法的な擬制であり、解除されるまでは解除しうる行為も有効なのであるから、解除の時点で復帰的物権変動があったかのように扱うことができる。つまり、この解除によって相手方から解除権者及び第三者へ二重譲渡があったものと同様に考えられる。
しかも、解除権者は解除後は直ちにその旨を登記することができたのだから、これを怠った帰責性があることは否めない。
したがって、所有者は第三者よりも先に登記を具備すれば、所有権の返還を求めうる。
占有者は第三者に対して、登記なくして時効取得を対抗できるか。すなわち取得時効により土地所有権を取得した者は時効完成前の第三者に対して登記なくして所有権を対抗できるかが問題となる。
この点、時効取得者は時効完成前の第三者との関係では登記なくしてその所有権を対抗できると解する。
なぜなら、時効完成前の第三者は、時効取得者とあたかも物権変動の当事者類似の関係に立つと考えられるので、177条の第三者にあたらないからである。しかも、時効取得者に対して時効完成前に登記を要求するのは不可能であり、妥当でない。
したがって善意無過失の占有者は、第三者に対して、登記なくして時効取得を対抗できる。
占有者は第三者に対して、登記なくして時効取得を対抗できるか。すなわち取得時効により土地所有権を取得した者は時効完成後の第三者に対して登記なくして所有権を対抗できるかが問題となる。
この点、時効取得者は時効完成後の第三者との関係では登記なくしてその所有権を対抗できないと解する。
なぜなら、時効取得によって所有権を取得した者と譲渡によって所有権を取得した者とは二重譲渡類似の関係が認められるからである。しかも、時効取得者は時効完成後は直ちにその旨を登記することができたのだから、これを怠った帰責性があることは否めない。
したがって、占有者は第三者に対して登記なくして所有権を対抗できない。
占有者は登記なくして背信的悪意者に対抗できるか。すなわち、時効完成後の第三者が背信的悪意者と認定されるためには占有者が取得時効の成立要件を充足していることを具体的に認識していることを要するかが問題となる。
この点、占有者が取得事項の成立要件を充足していることを具体的に認識していなくても、背信的悪意者と認められる場合があると解する。
なぜなら、取得時効の成否については、その要件の充足の有無が容易に認識、判断することができないからである。もっとも、多年にわたる占有継続の事実は認識している必要があり、その上で、登記がないことを主張することが信義に反するものと存在する事情が存在するときは、背信的悪意者に該当すると解する。
したがって、本件の場合第三者は、占有者が長年にわたり占有していることを認識しており、かつ占有者を困らせようという背信的意図があるため背信的悪意者にあたる。よって占有者は登記なくして第三者に対抗できる。
他方は自己の持分について買主である第三者に登記なくして対抗できるか問題となる。
この点、899条の2第1項(法定相続分を超える部分については登記なくして第三者に対抗できない)の反対解釈により、自己の持分については登記がなくても第三者に対抗できると解する。
したがって、他方は登記なくして自己の持分を買主である第三者に対抗できる。
他方は一方の持分について登記なくして買主である第三者に対抗できるか。本来遺産分割には遡及効があり、これを貫くと、一方は初めから無権利者となり、かかる一方と取引した買主である第三者も無権利者となるので、他方は登記なくして一方の持分の取得を買主である第三者に対抗できるはずである。しかし、買主が909条のただし書(遺産分割は相続時に遡ってその効力を生ずる。ただし、第三者の権利を害することはできない)の第三者にあたるかが問題となる。
この点、909条のただし書の第三者とは、遺産分割前の第三者をいうと解する。なぜなら、909条ただし書は遺産分割前の第三者に不測の損害を与えないための規定だからである。すると、買主は遺産分割前に登場しているため909条ただし書の第三者にあたる。
次に、909条のただし書の第三者として保護されるためには遺産分割協議前であることにつき善意であるかが問題となる。
この点、909条のただし書の第三者は遺産分割協議前であることにつき悪意でも良いと解する。
なぜなら、条文上は善意は要件とされてない上、相続人による持分処分を禁止する規定もないからである。
さらに、909条のただし書の第三者として保護されるためには登記が必要かが問題となる。
この点、909条のただし書の第三者として保護されるためには権利保護要件としての登記が必要と解する。な
ぜなら、遺産分割の結果として、相続財産につき単独所有者となった者に帰責性が無いことから、相続財産の譲受人は自己の権利を守るために権利保護要件としての登記を要求することが公平に資するからである。
したがって、本件の場合買主は登記を備えているため909条のただし書の第三者として保護されるので、他方は一方の持分についての所有権の取得を、登記なくして買主である第三者に対抗できない。
他方は一方に登記なくして所有権を主張できるか。まず元々他方が有していた持分についてはどうか。
この点、899条の2第1項(法定相続分を超える部分については登記なくして第三者に対抗できない)の反対解釈により、自己の持分については登記がなくても第三者に対抗できると解する。
したがって、他方は元々自己が有していた持分については登記がなくても一方へ対抗できる。
次に、元々一方が有していた部分についてはどうか。
この点、899条の2第1項により、法定相続分を超える部分については登記なくして第三者に対抗できない。
したがって、他方は買主に対して一方の持分を取得したことを主張できず、他方は所有権を主張できない。
相続放棄をしなかった者は相続放棄をした者の債権者に対し単独所有権を対抗できるか。すなわち登記なくして債権者に対抗できるかが問題となる。
この点、相続放棄の遡及効(939条)は絶対的であり、何人に対しても登記なくしてその効力を対抗することができると解する。
なぜなら、相続放棄は遺産分割と異なり、第三者保護の規定がおかれていないことからすると、登記を必要とする物権変動に含めるべきではないからである。また、相続放棄の有無は938条により家庭裁判所に問い合わせれば知りうるのであり、放棄の効力を登記なしに主張できるとしても、第三者が害される危険性は少ない。
したがって、相続放棄をしなかった者は相続放棄をした者の債権者に対し登記なくして単独所有権を対抗できる。
他方は登記なくして単独所有権を買主に対抗することができるか。特定の遺産を特定の相続人に相続させる旨の遺言(特定財産承継遺言)の法的性質とその効果をどのように解釈するかが問題となる。
この点、その法的性質は遺贈(964条)と解する特段の事情がない限り、遺産分割方法の指定(908条)と解する。
なぜなら、遺言者の意思は、当該遺産を他方へ単独相続させようとする趣旨と解するのが合理的だからである。
次に、その効果としては原則として何らの行為を要せず、被相続人の死亡と同時に、当該遺産が当該相続人に承継されると解する。
なぜなら、遺言により遺産分割方法を指定した場合には、他の共同相続人も当該遺言に拘束され、これと異なる遺産分割の協議はなし得ないからである。
しかし、第三者の取引安全の見地から、他方は法定相続分を超える部分について、登記がなければ第三者に対抗できない。
したがって、他方は登記なくして単独所有権を買主に対抗できない。
まず、相続人は被相続人の土地の占有権を相続するか。
この点、占有権も権利である以上、896条(相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。)の一切の権利義務にあたるので、相続の対象になると解する。
したがって相続人は被相続人の占有権を相続する。
この場合、相続人は所有の意思のない他主占有を相続することとなり、時効取得できない。では、相続人は187条1項(占有者の承継人は、その選択に従い、自己の占有のみを主張し、又は自己の占有に前の占有者の占有を併せて主張することができる。)により自己固有の占有を主張できないか。同条項が相続のような包括承継にも適用されるかが問題となる。
この点、187条1項は相続の場合にも適用され、相続人は自己固有の占有のみを主張することができると解する。
なぜなら、187条1項の趣旨は、占有の承継人は前主の占有を承継すると同時に自己固有の占有を開始するという占有の二面性を認めた点にあるからである。
しかし、相続人の自己固有の占有のみを主張することができたとしても、被相続人から承継した他主占有の側面も否定できない。そこで相続人は相続を契機に自己固有の占有が他主占有から自己占有に転換し、新たな権原となった事を主張できるかが問題となる。
この点、相続は原則として新たな権原とはいえないが、①相続を契機に、相続人が新たに目的物を事実上支配することによって占有を開始し、②公租公課を自己名義で払うなど相続人の占有が所有の意思に基づくものと認められる場合には、相続は新たな権原といえると解する。
なぜなら、永続する事実状態の尊重という時効制度の趣旨と、真の所有者の時効更新の機会の確保の要請との合理的調和の見地から、このような場合には時効取得の可能性を認めるべきだからである。
したがって相続人は上記条件を満たしたときから10年間使用していれば時効取得を主張できる。