不動産競売とは
民事執行法に基づいて行われる不動産の売却手続きの事であり、「競売不動産」とは競売の対象となっている不動産を指します。
不動産競売の種類
・不動産強制競売(ヌ)
抵当権等の担保権を有しない債権者が確定判決等の債務名義をもとに行う。
・担保不動産競売(ケ)
抵当権等の担保を有する債権者がその担保権の実行として担保権を示す公的な文書をもとに行う。
◎競売対象不動産(強制競売、担保競売共通)
民法上・民事執行法上の不動産、その共有持分及び登記済み地上権。永小作権とその準共有持分、及びその他特別法上の不動産とみなされるもの。
✔強制競売も担保不動産競売も要件は違えど、その手続きはほぼ同じです。
※競売不動産のほとんどは抵当権等が複数つけられており、担保競売です。
競売によって一般債権者が配当を受ける可能性は少ない為、強制競売(ヌ)事件が競売の対象となることは稀です。
故に(ヌ)事件の物件は要注意と言えます。
・形式的競売
遺産分割手続等、競売の本来の目的である債権回収とは異なる目的で行う。
★不動産の強制執行には競売の他に「強制管理」という方法があります。
これは差押不動産を管理人が強制管理し、そこから得られる収益や換価代金によって執行債権の満足を得る方法です。
一般流通不動産と競売不動産の相違点
一般流通不動産は購入窓口が主に宅建業者であり、宅建業法により業者への規制や買主への保護が図られているのに対して、
競売不動産は購入窓口が裁判所であり、買受人を保護する規制もありません。
競売不動産は民法上の契約不適合責任の適用が無く、賃借人等の占有者や不法占拠者が存在するといったリスクがあります。
また、一般流通不動産と違い購入前の内覧も事実上不可となっております※
よって一般の人が入札に参加する場合、競売代行業者を利用したり、競売不動産取扱主任者へ相談する場合が多いです。
※H16年の法改正により「内覧制度」が出来たため、後述します。
不動産競売の手続
①売却準備手続
先ず金銭債権者は弁済が無い場合書面により不動産の競売を申し立てることができます。
強瀬競売の申立てがあると、執行裁判所は書類を検査し、適法と認めるときは強制競売開始の決定をし、不動産差し押さえの宣言をします。
この時、裁判所書記官はただちに差し押さえの登記を管轄法務局に嘱託しなければなりません。
開始手続の終了後、執行裁判所は執行官に対し対象不動産の調査を命じなければなりません。
執行官は現況調査報告書を作成し、所定の日までに執行裁判所へ提出します。
また、執行裁判所は当該不動産の売却基準価額を決定するため、評価人(通常は不動産鑑定士)を選任し、評価を命じなければなりません。
評価人は評価書を作成し、所定の日までに執行裁判所へ提出します。
評価書の写しは物件明細書(裁判所書記官が作成)、現況調査報告書の写しとともに、執行裁判所において一般の閲覧に供されます。
※物件明細書の写しの備置きは売却実施の日の1週間前までにしなければなりません。
これらは競売物件の「3点セット」と呼ばれており、入札に当たってはこの3点セットを読み解いて検討する必要があります。
そして執行裁判所は評価書に基づいて売却基準価額を決めなければならず、
競売物件を購入しようとする者はこの売却基準価額の2割を下回る価額(買受可能価額)以上でなければ、買受の申し出は出来ません。
②売却手続
この段階が執行手続のうちの「競売」に相当する部分となります。
売却方法は裁判所書記官が以下の中から選択します。
1.期間入札 2.期日入札 3.競り売り 4.特別売却
なお、実務上は期間入札と特別売却を組み合わせた形で行われるのが通例となっています。
期間入札:執行官が一定期間「入札」を受け付け、開札期日に開札します。
特別売却:入札、競り売りで買受の申出が無かった場合に実施されます。先着順で、買受可能額以上で入札した者が買受人となります。
競売物件の調査
物件明細書(裁判所書記官が作成)
【必須記載事項】
不動産の表示(所在、土地面積、建物構造等)や買受人が引き受ける事になる権利関係の一定の情報を記載したものです。
※あくまで現況調査によるものですので、当事者の権利関係を確定するものではない点に注意が必要です。
具体的には、「不動産に係る権利の取得及び仮処分の執行で売却によりその効力を失わないもの」、
「売却により設定されたものとみなされる地上権の概要」です。
(分かりやすい表現に置き換えると「購入後に引き継ぐ権利義務」と「購入後に発生する法定地上権の概要」になります。)
・消除主義(売却により効力を失う)権利
先取特権、使用収益をしない旨の定めがある質権並びに抵当権
・引受主義(買受人が負担する事となる他人の権利)
留置権(差押えの効力が生じた後のものも含む)、使用収益を伴う質権、担保権者・差押債権者に対抗できる用益権(賃借権、地上権等)
消滅する権利を有するもの及び差押債権者・仮差押債権者に対抗できる仮処分の執行
【任意記載事項】
占有者の有無、対象が借地権付き建物の場合は未払地代・分譲マンションの場合は管理費、修繕積立金の滞納状況などがあります。
(引受主義かつ購入後の利用に深刻な影響を与えない負担事項は任意記載事項に該当するという認識です。)
現況調査報告書(執行官が作成)
競売不動産の形状、占有関係、その他の現況について調査した報告書です。
評価書(評価人が作成)
執行裁判所が任命した評価人(通常は不動産鑑定士)が競売不動産の評価額及び評価の過程を記載した書面です。
売却基準価額をはじめ、対象不動産の都市計画法・建築基準法等、不動産に関する公法上の規制についても記載されています。
※執行裁判所は、必要であると認められるときは売買基準価額を変更する事が出来ますが、あくまで評価員が価額の決定を行うため、
変更の場合は原則として裁判所から再評価または補充評価命令を発令して評価の見直しを行います。
期間入札の公告書
3点セットとは別に、入札期間開始の2週間前までに裁判所や庁舎に公告が掲示されます。
公告書には、3点セットに記載予定の売却関する重要事項が記載されています。
(追って作成される3点セットの冒頭には公告書の写しが添付されます。)
競売物件資料の閲覧方法
①執行裁判所で閲覧
②BIT(Broadcast Information of Tri-set system)
期間入札の参加資格
期間入札(買受けの申出)は個人法人問わず基本誰でも参加可能です。
資格証明書があれば外国人も、親権者の同意があれば未成年でも参加できます。
また、共有での入札も参加可能ですが、事前に執行官の許可が必要となります。
ただし、以下の者、物件については制限があります。
・債務者
自分の債務の弁済が先です。
・過去に当該物件の入札に参加し、買受人になるも売却代金を支払わなかった者
キャンセルによるペナルティーです。
・物件が農地の場合
農地は別途法規制があり、売買取引が制限されています。農業に従事している人でないと基本的に購入できません。
・暴力団
期間入札の流れ
競売物件を購入したい場合、入札期間内(一週間以上一ヶ月未満)に「買受申出保証金」(通常は売却基準価額の2割)を提供して買受の申出を行います。
その後開札期日に最高価額での買受の申出をした者が、最高価買受申出人とされ、キャンセルに備えて次順位買受申出人も決定されます。
その後裁判所の審理を経て売却許可決定の言渡しがされます。
決定後、買受人は裁判所書記官の定める期限までに代金を納付しなければならず、納付されない場合売却許可決定の効力は失われます。
この時、次順位買受申出人がない場合は再売却の手続がとられます。
買受人が代金(保証金を除いた残額)を納付すれば、その時点で買い受けた不動産の所有権を取得することになります。
(具体的には買受人の残額、登録免許税の納付を受けて執行裁判所が差押え、抵当権等の登記抹消及び所有権移転登記の嘱託をします。)
★民事執行法改正により、買受人が事前に申し出れば、競売物件もローンを利用する事が出来るようになりました。
融資を受ける金融機関(抵当権者)の権利の登記は所有権移転と併せて行うことが可能です。
開札手続
入札期間終了後、あらかじめ公告されていた開札期日に開札が行われます。
執行裁判所内の売却場で執行官が入札書の入った封筒を開封して入札書を読み上げて行われ、
最も高値を付けた人が「最高価買受申出人」(1位)と定められて氏名、入札価額が告げられます。
また、次順位買受申出資格のある入札人(2位)がいる場合にはその氏名、入札価額が告げられ次順位買受けの申出を催告した後、
執行官は期日の終了を宣言します、
入札人は開札期日に出頭する必要はなく、最高価額を付けた者は出頭していなくでも最高価買受申出人となることができます。
ただし、次順位の買受申出をするには開札期日に申し出る必要があるため、出頭する必要があります。
(代理人によって入札した場合は代理人が出頭すれば問題ありません。)
執行官は開札時に入札者又は裁判所書記官等を立ち会わせなければなりません。
1位と2位の決定方法
・1位が2人以上の場合
期日入札の方法により追加入札を実施します。(前回の入札額よりも高い価額で入札する必要があります。)
・追加入札に2人以上又は全員が応じない場合/追加入札でも同額だった場合
くじで1位を決定します。
2位になる資格とは
1位の次に入札額が高額で、買受可能価額(8割)と、1位の額から買受申出保証額(2割)を控除した金額のいずれか高い方以上の入札額である事です。
・2位が2人以上の場合
追加入札は無く、直ちにくじで2位を決定します。
売却決定期日・代金納付
執行裁判所は、最高価買受申出人と定めた者に対して売却許可をするかどうかの審理をし、
特に問題無ければやむを得ない場合を除いて開札期日から3週間以内の日で指定される売却決定期日に買受人決定の旨を利害関係人に対して言い渡すこととなり、書記官はその内容を公告します。(売却不許可の場合、公告の必要はありません。)
決定に対し不服がある者は、決定から1週間以内に執行抗告による不服申立てが認められます。
1週間以内に不服申立てが無い、または申立てが却下または棄却され、決定が確定すると買受人として確定し、代金の納付が可能になります。
なお売却決定期日の終了前に執行停止文書が提出された場合、他の事由により売却不許可とする場合を除いて売却決定期日を開く事は出来ず、
訴訟で決着をつける事になります。
その場合、落札者が債務者(または占有者)と示談交渉を行い、一定の金銭(示談金)を支払うことで、執行停止文書の提出や訴訟を回避する
逆に、債務者側が落札者に対して示談金を支払うことで、落札者が手続を取り下げる(または売却不許可を受け入れる)といった決着が見込まれます。
代金の納付は売却許可決定が確定した時から1か月以内に納付する必要があり、納付後に所有権を取得します。
特別売却
入札及び競り売りの方法で買受の申出がなかった場合に実施されるのが特別売却です。
書記官は入札及び競り売りの方法で買受の申出がなかった場合に執行官へ、
やむを得ない場合を除き3か月以内の期間を定めて他の方法で不動産の売却を実施すべき旨を命ずることができるとされており、
この「他の方法」がすなわち特別売却を指しています。
特別売却の種類
・条件付特別売却実施処分(条件付特売)
期間入札の売却命令と同時に、期間入札において適法な買受の申出が無い時に特別売却を実施する方法です。
・特別売却実施処分に基づく特別売却(上申特売)
差押債権者からの買受希望者がいることを理由とする上申書の提出があった時に行う売却方法です。
特別売却の実施方法
・実施条件
少なくとも1回は期間入札等による売却にチャレンジしている必要があります。
・実施手続
執行官室へ買受申出保証とともに特別売却買受申込書を提出します。
・売却基準価額、買受可能価額
その直前の入札等における価額と同額とされています。
・買受申出の保証
期間入札等における保証の額と同様に、売却基準価額の10分の2とするのが通例です。
・買受申出の方法
買受申出保証金を、裁判所口座への振り込みor現金納付or裁判所が相当と認める有価証券の提出によって支払い、
特別売却物件買受申込書を執行官室に持参します。(期間入札等と同様)
※特別売却の場合は馬脚実施処分及び公告の中で売却決定期日を定めていないため、買受けの申出があったタイミングで裁判所が売却決定期日を定めます。
内覧制度
H16年の法改正により内覧制度が新設されましたが、内覧はトラブルの発生により売却価額を低下させる危険性があり、
実施に際して一定の費用も掛かることから、その実施において差押差権者の申立てが要件とされてます。
また、不動産の占有者が差押債権者、仮差押債権者及び売却により消滅する抵当権者に対抗できる権原を有する場合は占有者の同意がなければ、
内覧実施命令の発令は出来ません。
以上の通り厳しい条件の為、実務上はほとんど利用されていないのが現状です。
なお、執行裁判所は内覧の円滑な実施が困難であることが明らかな場合は、内覧実施の命令を取り消すことが可能です。
保証金の返還
開札の結果、最高価買受申出人及び次順買受申出人に指定された者以外の保証金については開札後、返還されます。
なお、次順買受申出人の保証金は、最高価買受申出人の代金納付の後、返還されます。
また、開札前に競売手続の停止、取消、取下げがあった場合も保証金は返還されます。
※取下げの場合、債務者の同意は不要ですが、最高価買受申出人または次順買受申出人の同意が必要です。
剰余主義
申立てをした債権者に、当該物件の売却代金の配当等が分配されないような事件については、手続は取り下げるものとされています。
競売は債務者の意思に反して強制的に目的不動産を売却し、差押債権者の金銭満足を図ろうとするものであるため、差押債権者が全く配当を受け取ることができない場合には、債権者の債権回収という目的を達することができず、手続きが無駄になるため許されるべきではないからです。(無益執行の禁止)
また、民事執行法では担保権について、売却によって消滅すると定めているため(消除主義)、差押債権者が配当を受けることができない場合、他の債権者も配当を受けられないままに担保権を失う事となってしまう(優先債権者の利益を害することになる)という理由もあります。
よって民事執行法では、買受可能価額を基準として、優先債権がなければ手続費用を、あればすべての優先債権者の債権額と手続費用をペイできなければ競売手続を行ってはならない、としています。(剰余主義)
※剰余の判断は現況調査報告書及び評価書が提出され、かつ配当要求の終期が到来したあとに判断されます。
競売手続の停止・取消
執行裁判所は、裁判所書記官が入札、又は競り売りの方法による売却を3回実施させても買受けの申出がなかった場合において、事情を考慮した上で売却の見込みがない場合、強制競売の手続きを停止する事ができる、としています。
停止した場合、差押債権者が停止の通知を受けてから3か月以内に、売却を実施させるべき旨を申し出た場合、裁判所は売却を実施させなければなりませんが、その期間内に申出が無い場合、執行裁判所は強制競売の手続きを取り消すことができます。
なお、差押債権者はその取消決定に対して執行抗告により不服を申し立てることができます。
代金納付の効果