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鑑定理論

不動産鑑定評価基準 総論第7章-鑑定評価の方式- Vol.4(賃料)

 

 

賃料の棲み分けと算出方法

 

新規賃料:積算法、賃貸事例比較法、収益分析法

継続賃料:差額配分法、利回り法、スライド法、賃貸事例比較法

 

 

新規賃料

賃料の鑑定評価は原則「実質賃料」を求める。

依頼によっては敷金等の一時金の授受を加味している実質賃料の一部にあたる「支払賃料」を求めることもある。

・実質賃料(総収益

賃料の種類を問わず賃貸人に支払われる適正な全ての経済的対価をいい、「純賃料」と「諸経費等」から成り立つもの。

・支払賃料

毎月等一定期間に支払われる賃料であり、「敷金等の一時金の運用益・償却額」を加える事で「実質賃料」となる。

一時金:礼金、権利金。返還義務のないもので、賃料の前払的性格を有する。

預り金:敷金、保証金、建設協力金。契約終了時に返還義務がある。

元利均等償還率:一時金に乗じる事で運用益と償却額を一挙に求める事が可能。

 

 

積算法(積算賃料)

対象不動産について価格時点における「基礎価格」を求め、

これに期待利回りを乗じて得た額に必要諸経費等を加算し対象不動産の試算賃料を求める手法。

(元本果実関係に着目した方法。要するに収益価格に期待利回りを乗じてまず純賃料を求めるという事。)

純賃料と必要諸経費を足す事で「積算賃料(実質賃料)」を求める事ができる。

・基礎価格

積算賃料を求めるための基礎となる価格を言い、「原価法」「取引事例比較法」によって求める。

収益還元法は賃料が分からなければ使用できない為、循環論法に陥ってしまうので適用できない

基礎価格は、必ずしも「最有効使用」を前提とする価格になるとは限らない。(使用は賃貸借契約による制約を受けるため)

宅地の賃料:最有効使用が可能な場合は「更地」厳しい場合は「建付地」に即応した価格。

建物及びその敷地の賃料:「現状」に基づく利用を前提とした価格。

・期待利回り

算出方法は還元利回りに準ずるものの、賃料の有する特性によって還元利回りとの差が生じる事に留意する必要がある。

(期待利回りは価格から賃料を求めるものであり、還元利回りは賃料から価格を求めるものである。)

・必要諸経費等

減価償却費、維持管理費、公租公課、損害保険料、貸倒準備費(敷金等の担保がが不十分な場合)、空室損等

収益還元法の「総費用」と同内容。

 

 

賃貸事例比較法(比準賃料)

新規の賃貸借等の事例を収集して事例選択を行い、

これらに係る「実際実質賃料」に必要に応じて事情補正及び時点修正を行い、

地域要因・個別的要因の比較を行って求められた価格を比較考量し、試算賃料を求める手法。

・事例収集時の留意点

取引事例比較法の留意点に加えて、賃貸借等の事例の収集及び選択については、「契約内容の類似性」が必要。

例えば定期借家契約と普通賃貸借契約の賃料を比較するべきではないという事。

 

収益分析法(収益賃料)

一般に企業経営に基づく総収益(売上高)を分析して、対象不動産が一定期間に生み出すであろうと期待される純収益を求め、

必要諸経費を加算して試算賃料を求める方法。

収益分析法は「企業の用に供されている不動産」に帰属する純収益を求める場合に有効。

(寄与度に応じて配分し、純収益を決定する為「収益配分の原則」に即した方法。)

総賃料等から算定する手法のため、賃貸用不動産の場合は総賃料=試算賃料となり循環論に陥るため収益分析法は使用できない。

収益賃料は収益純賃料の額に、賃貸借等にあたって賃料に含まれる必要諸経費を加算して求めるものとするが、

一般企業経営に基づく総収益を分析して上記の必要諸経費も含まれているようであれば、総収益から直接試算賃料を求める事ができる。

 

 

継続賃料

継続賃料の鑑定評価額は現行賃料を前提として、直近合意時点以降において、

諸般の事情(公租公課・近隣地域、同一需給圏内の類似地域等における賃料または同一需給圏内の代替不動産の賃料の変動等)

を総合的に勘案し、契約当事者間の公平に留意の上で決定するもの。

直近合意時点:新規契約時や直近の契約更新時の事。

 

差額配分法

対象不動産の経済価値に即応した適正な「実質賃料」と「実際実質賃料」または「支払賃料」と「実際支払賃料」との間に発生している差額について、契約内容・契約締結の経緯を勘案し、当該差額のうち賃貸人等に帰属する部分を適切に判定して得た額を実際実質賃料に加減して試算賃料を求める手法。(現行賃料と賃料相場の差額を賃貸人と賃借人で歩み寄って賃料の増減をしようという事

即応した適正な賃料とは価格時点において想定される「新規賃料」であり、「正常実質賃料」あるいは「正常支払賃料」と表現する。

最有効使用を前提とするわけではない。差額配分法は不動産の用益の増減を反映する点において説得力のある方法である。

 

利回り法

基礎価格に「継続賃料利回り」を乗じて得た額に必要諸経費等を加算して試算賃料を求める手法。継続賃料利回りは直近合意時点における基礎価格に対する純賃料の割合を踏まえて求める。(つまり新規賃料算出方法の「積算法」における「期待利回り」を踏まえて求めるという事。)

地価の変動が著しい時期は元本果実の関係が希薄になる事があるので、

賃料の遅行性、保守性」に留意して計算する必要がある。(価格変動に対して賃料は遅行性があるので。)

 

スライド法

直近合意時点における純賃料に変動率を乗じて得た額に、価格時点における必要諸経費等を加算して試算賃料を求める手法。

変動率とは物価の上昇・下落率

経済成長率消費者物価指数といった公的な指数によって変動率を求める。

 

賃貸事例比較法

新規賃料を求める賃貸事例比較法との相違点は「継続に係る賃貸借等の事例」を収集するという事。(新規賃料の事例は選択しない。)

 

◆論点◆

 

・継続賃料を求める場合の一般的留意事項

継続賃料とは、不動産の賃貸借等の継続に係る特定の当事者間において成立するであろう経済価値を適正に表示する賃料をいう。

継続賃料の鑑定評価額は、現行賃料を前提として契約当事者間で現行賃料を合意し、それを適用した時点(直近合意時点)以降において、公租公課、土地及び建物価格、近隣地域若しくは同一需給圏内の類似地域等における賃料又は同一需給圏内の代替競争不動産の賃料の変動等の事情変更のほか、賃貸借等の契約の経緯、賃料改定の経緯及び契約内容等の諸般の事情を総合的に勘案し、契約当事者間の公平に留意の上決定するものである。

継続賃料を求めた場合には、考慮する事情変更の対象期間を明確にするため、鑑定評価報告書における鑑定評価額の決定の理由の要旨として、直近合意時点について記載しなければならない。

 

・積算法における基礎価格

積算法は、対象不動産について、価格時点における基礎価格を求め、これに期待利回りを乗じて得た額に必要諸経費等を加算して対象不動産の試算賃料(積算賃料)を求める手法である。

基礎価格とは積算賃料を求めるための基礎となる価格をいい、価格時点における対象不動産の経済価値に即応した価格となるのであって、必ずしも最有効使用を前提とする経済価値に即応した価格となるとは限らないことに留意すべきである。

基礎価格を求める際の留意点は次のとおりである。

I:基礎価格は原価法及び取引事例比較法により求めるものとする。賃料を基礎とする収益還元法から積算賃料を求めるための基礎価格を求めるのは循環論に陥るので、妥当でない。

II:宅地の賃料(いわゆる地代)を求める場合において、最有効使用が可能な場合は、更地の経済価値に即応した価格である。建物の所有を目的とする賃貸借等の場合で契約により敷地の最有効使用が見込めないときは、当該契約条件を前提とする建付地としての経済価値に即応した価格である。つまり建物の所有を目的とする賃貸借等の場合で契約により敷地の最有効使用が見込めないときは、制約の程度に応じた経済価値の減分を考慮して求めるものとする。

III:建物及びその敷地の賃料(いわゆる家賃)を求める場合は建物及びその敷地の現状に基づく利用を前提として成り立つ当該建物及びその敷地の経済価値に即応した価格である。

IV:中高層賃貸住宅の賃料を求める場合において、基礎価格を原価法により求めるときは、一棟の建物及びその敷地の積算価格に階層別及び同一階層内の位置別の効用比により求めた配分率を乗ずることにより求める必要がある。

V:店舗用ビルの場合、賃貸人は躯体及び一部の建物設備を施工するのみで賃貸し、内装、外装及び建物設備の一部は賃借人が施工することがあるので、積算賃料を求めるときの基礎価格の判定にあたってはこれに留意すべきである。

 

・期待利回りと還元利回り

積算法は、対象不動産について、価格時点における基礎価格を求め、これに期待利回りを乗じて得た額に必要諸経費等を加算して対象不動産の試算賃料(積算賃料)を求める手法である。

期待利回りとは、賃貸借等に供する不動産を取得するために要した資本に相当する額に対して期待される純収益の、その資本相当額に対する割合をいう。

収益還元法は、対象不動産が将来生み出すであろうと期待される純収益の現在価値の総和を求めることにより対象不動産の試算価格(収益価格)を求める手法である。

収益価格を求める方法には、一期間の純収益を還元利回りによって還元する直接還元法と、連続する複数の機関に発生する純収益及び復帰価格を、その発生時期に応じて現在価値に割引、それぞれを合計するDCF法がある。

還元利回りは、直接還元法の収益価格及びDCF法の復帰価格の算定において、一期間の純収益から対象不動産の価格を直接求める際に使用される率であり、将来の収益に影響を与える要因の変動予測と予測に伴う不確実性を含むものである。

期待利回りと還元利回りはいずれも不動産の収益性(元本と果実との相関関係)の表れであるという点で共通するが、対応する期間概念について相違点が認められる。

還元利回りは不動産が存続する全期間にわたって、不動産を使用収益できることを基礎として生ずる経済価値(価格)に対応するものであることに対して、期待利回りは左記の全期間のうち一部の期間において、賃貸借契約等に基づき不動産を使用収益できることを基礎として生ずる経済価値(賃料)に対応するものである。

期待利回りを求める方法は収益還元法における還元利回りを求める方法に準ずるものとされているが、対応する期間概念の相違を踏まえた賃料の有する特性(賃料の遅行性等)に留意すべきである。

 

・賃貸借契約内容の類似性について

賃貸事例比較法は、まず多数の新規の賃貸借等の事例を収集して適切な事例の選択を行い、これらに係る実際実質賃料に必要に応じて事情補正及び時点修正を行い、

かつ、地域要因の比較及び個別的要因の比較を行って求められた賃料を比較考量し、これによって対象不動産の試算賃料(比準賃料)を求める手法である。

賃貸借等の事例の収集及び選択については、取引事例比較法における事例の収集及び選択に準ずるものとする。

この場合において、新規賃料固有の価格形成要因である賃貸借等の契約の内容について類似性を有するものを選択すべきことに留意しなければならない。

契約内容の類似性を判断する際に留意事項を例示すれば次のとおりである。

I:賃貸形式

II:賃貸面積

III:契約期間並びに経過期間及び残存期間

IV:一時金の授受に基づく賃料内容

V:賃料算定の期間及びその支払方法

VI:修理及び現状変更に関する事項

VII:賃貸借等に供される範囲及びその使用方法

 

・賃貸事例比較法における地域要因、個別的要因の比較

賃貸事例比較法は、まず多数の新規の賃貸借等の事例を収集して適切な事例の選択を行い、これらに係る実際実質賃料に必要に応じて事情補正及び時点修正を行い、

かつ、地域要因の比較及び個別的要因の比較を行って求められた賃料を比較考量し、これによって対象不動産の試算賃料(比準賃料)を求める手法である。

賃料を求める場合の地域要因の比較及び個別的要因の比較については、取引事例比較法の場合に準ずるものとする。

賃貸借等の事例の賃料は、賃貸借等の事例に係る不動産の存する用途的地域の地域要因及び当該不動産の個別的要因を反映してるものであるから、賃貸借等の事例に係る不動産が同一需給圏内の類似地域等に存するもの又は同一需給圏内の代替競争不動産である場合においては近隣地域と当該事例に係る不動産との地域要因の比較及び対象不動産と当該事例に係る不動産との個別的要因の比較を、賃貸借等の事例に係る不動産が近隣地域に存するものである場合には対象不動産と当該事例に係る不動産との個別的要因の比較をそれぞれ行うものとする。

なお、賃料を求める場合の地域要因の比較に当たっては、賃料固有の価格形成要因が存する事等により、価格を求める場合の地域と賃料を求める場合の地域とでは、それぞれの地域の範囲及び地域の格差異にすることに留意することが必要である。

また、賃料を求める場合の個別的要因の比較にあたっては、契約内容、土地及び建物に関する個別的要因等に留意することが必要である。

 

・差額配分法のメリット、デメリット

継続賃料の鑑定評価手法にあっては差額配分法、利回り法、スライド法、賃貸事例比較法等がある。

差額配分法は、対象不動産の経済価値に即応した適正な実質賃料又は支払賃料と、実際実質賃料又は実際支払賃料との間に発生している差額について、契約内容、契約締結経緯等を総合的に勘案して、当該差額のうち賃貸人に帰属する部分を適切に判定して得た額を実際実質賃料または実際支払賃料に加減して試算賃料を求める手法である。

対象不動産の経済価値に即応した適正な実質賃料は、価格時点において想定される新規賃料であり、積算法、賃貸事例比較法等により求めるものとする。

対象不動産の経済価値に即応した適正な支払賃料は、契約に当たって一時金が授受されている場合については、実質賃料から権利金、敷金、保証金等の運用益及び償却額を控除することにより求めるものとする。

対象不動産の経済価値に即応した適正な実質賃料又は支払賃料とは、契約によって最有効使用が制約されている場合には、当該制約を前提として把握される元本価格に即応した賃料をいうものであり、必ずしも当該不動産の最有効使用を前提とするものではない。

賃貸人に帰属する部分については、継続賃料固有の価格形成要因に留意しつつ、一般的要因の分析及び地域要因の分析により差額発生の要因を広域的に分析し、さらに対象不動産の契約内容及び契約締結経緯に関する分析を行い、安易に2分の1法等によるものではなく契約当事者間の公平の観点から適切に判断する必要がある。

差額配分法の長所としては、賃貸借等に供されている不動産の用益の増減分を反映し得るので説得力を有する事があげられる。

一方、短所としては、賃貸人等への差額配分の査定が主観的になるおそれがあることがあげられる。

 

・利回り法のメリット、デメリット

継続賃料の鑑定評価手法にあっては差額配分法、利回り法、スライド法、賃貸事例比較法等がある。

利回り法は、基礎価格に継続賃料利回りを乗じて得た額に、必要諸経費等を加算して試算賃料を求める手法である。

利回り法は、不動産の価格と賃料の間に認められる、いわゆる元本と果実との相関関係に着目した手法であり、基礎価格(元本)に継続賃料利回りを乗ずれば純賃料相当額が得られる。(果実)

基礎価格及び必要諸経費等の求め方については積算法に準ずるものとする。

継続賃料利回りは、直近合意時点における基礎価格に対する純賃料の割合を踏まえ、継続賃料固有の価格形成要因に留意しつつ、期待利回り、契約締結時及びその後の各賃料改定時の利回り、基礎価格の変動の程度、近隣地域若しくは同一需給圏内の類似地域等における対象不動産と類似の不動産の賃貸借等の事例又は同一需給圏内の代替競争不動産の賃貸借等の事例における利回りを総合的に比較考量して求めるものとする。

利回り法の長所としては、賃貸借等の契約内容や契約締結経緯等の個別性を利回りの面で反映できる、元本と果実の相関関係を捉え理論的であることがあげられる。

一方、短所としては地価の変動が著しい時期においては、賃料の遅行性及び保守性との関連で適正な利回りの把握が困難となることがあげられる。

 

・スライド法のメリット、デメリット

継続賃料の鑑定評価手法にあっては差額配分法、利回り法、スライド法、賃貸事例比較法等がある。

スライド法は、直近合意時点における純賃料に変動率を乗じて得た額に価格時点における必要諸経費等を加算して試算賃料を求める手法である。

なお、直近合意時点における実際実質賃料または実際支払賃料に即応する適切な変動率が求められる場合には、当該変動率を乗じて得た額を試算賃料として直接求めることができるものとする。

変動率は、直近合意時点から価格時点までの間における経済情勢等の変化に即応する変動分を表すものであり、継続賃料固有の価格形成要因に留意しつつ、土地及び建物価格の変動、物価変動、所得水準の変動等を示す各種指数(経済成長率、消費者物価指数等)や整備された不動産インデックス(賃料指数、市場地価指数等)等を総合的に勘案して求めるものとする。

スライド法の長所としては、客観的な経済情勢の変化を継続賃料に反映させることができることがあげられる。

一方、短所としては標準的な変動率を用いる為、対象不動産の個別性や地域性を反映し難いことがあげられる。

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