デューデリジェンス(建物の法的、経済的な調査)とエンジニアリングレポート(建物の物理的な調査)は不動産証券化に限らず、
不動産を取得する買主や購入後の管理会社(PM)にとって欠かせない作業です。
本記事ではその調査内容について解説いたします。
オリジネーターや金融機関の依頼を受けて、
調査会社、弁護士、不動産鑑定士等の担い手が実施します。
○土地状況調査
・・・登記簿や公図による調査(現地の測量と差異はないか)越境物(フェンス、塀、植栽など)の確認、過去に越境等によるトラブルは無かったか、埋蔵物、地盤強度、土質 など
○建物状況調査
・・・築年数、構造、延床面積、法令遵守状況(建築基準法、消防法など)、修繕履歴、今後の修繕見積、再調達価格(建て直した場合の建築費用)
○環境調査
・・・アスベストやフロンなどの有害物質の含有に関する情報、土壌汚染、地下水汚染状況、日照条件、電波障害はないか など
○法的調査
・・・所有権、賃借権、占有者の有無、売買契約書内容自体のチェック、調整(ドキュメンテーション)
※テナントの賃貸借契約内容は「賃貸借契約書」で確認する必要があります。
(所有者サイドで作成されたレントロールは事実と異なる場合がある為。)
また、取得予定不動産が「借地上」の建物である場合、借地権者への地代支払有無などをヒアリングする必要があります。(借地契約が契約書を介さず、登記もされておらず、口約束の範疇となり、うやむやになっているケースがあるからです。)
○経済的調査
・・・対象不動産周辺地域特性、個別要因、過去の稼働率、賃料の推移(過去ー現在将来)、入居中テナントの内容 など(運用利回りに直接関係する事柄が多いです。)
★特に経済的調査で重要なのは「アップサイド要因」「ダウンサイド要因」の検討です。これはエリア特性を鑑みてこれから賃料は上昇か、下落か、
上昇させるためにはリノベーション、コンバージョン(用途変更)など、それぞれの手段においてどれだけの上昇が見込めるか、
建物老朽化による賃料下落推移はどのようになるのか、といった期中管理における収入・支出予測に絡めて賃料(資産価値)の上下を予測する必要があります。
・現地調査必須
ERは現地調査なくして作成は出来ない(資料等のみでの判断、作成はあり得ない)
・緊急を要する修繕更新項目
現地調査時において故障中や機能していないもの、建基法や消防法の違反、指摘事項の中で非常時において人命、安全に関わる事項
・短期的修繕、更新、改修費用
1年以内に改善が必要と思われる事項。
・中長期的修繕、更新、改修費用
1年以上先ではあるものの、期中(保有期間)に発生する可能性があり、準備すべき事項。(ファイナンス期間に応じた年数で算出する必要がある。)
★修繕費とは「回復」させる費用、更新費とは「交換」する費用、改修費とは「新築時より良くする」費用を意味します。
・遵法性:違法建築物、既存不適格建物でないか、どうかの調査。確認済証、検査済証の照会が必要。
・再調達価格:建て直した場合の建築価格。
(精密な建築価格を出せれば現状の建物躯体、設備状況の詳細な調査結果の把握に貢献します。)
※解体撤去費用や移転引越し費用等は含みません。(あくまで更地に建てる、とした場合の価格。)
※竣工後の法的な制約条件等の変更の影響は考慮しません。
※新築時からの追加工事、改修工事の費用等は反映します。
★遵法性をクリアしている同規模・構造・エリアの建物を建築するイメージです。
参考資料:建物の標準的な建築価額表
・地震リスク評価(PML)
PML値が30%以上の場合は大破、60%以上の場合は倒壊の可能性が高いとされている。
PMLが15%を超える場合、レンダーは地震保険への加入を強く勧める傾向にあります。
★複数の案件でポートフォリオを作成し、分析する場合はER作成者やPML評価者を1社に統一することが望ましいです。
(比較可能性の観点から)
・耐震診断
耐震改修促進法により、耐震性能を表す指標としてIs値を定め、Is値が0.6以上の建物については耐震補強が求められることとされた。
・建物環境リスク評価(フェーズⅠ):建築図面や現地調査(外観のみ)を元にリスクの有無、遵法性を評価する。
主な調査項目であるアスベスト(含有吹付材・含有建材)、PCBに加えて10項目の計12項目が調査範囲となる。
アスベスト調査の対象物質は3項目→6項目に拡大し、改修解体工事時の事前調査が厳格化しており、今後は有資格者による事前調査が義務化される。
0.1重量%を超えて含有する製品が規制の対象となる。
PCBについては処分義務があり、
特に高濃度PCBは全国5か所のJESCOでしか処分できず、2024年3月までの処分期限があった。
低濃度PCB廃棄物は2027年3月までの処分が義務付けられている。
・土壌汚染リスク評価(フェーズⅠ):現所有者の開示資料や現地調査(外観のみ)を元にリスクの有無、遵法性を評価する。
フェーズⅡ調査は外観の目視確認にとどまらず、建物であれば分解調査、土壌であれば掘削調査をオプションとして実施します。
フェーズⅢ調査は具体的な対策方法の検討、実施まで踏み込んでいきます。
・BELCA
日本におけるERのガイドラインとして、公益社団法人 ロングライフビル推進協会が発行しています。