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不動産証券化マスター

ー企業と不動産証券化ー

 

不動産証券化の定義

 

不動産証券化とは、複数の不動産資産を一つのプール(集合体)としてまとめ、そのプールから生じるキャッシュフロー(賃料収入や売却益など)を裏付けとした(化体させた有価証券(投資証券、受益証券、優先出資証券、債券等)を発行し、これを第三者の投資家に販売する金融取引です。

この仕組みにより、不動産の所有者(オリジネーター)は資産を特別目的事業体(SPV: Special Purpose Vehicle)に譲渡し、SPVが証券を発行して投資家から資金を調達します。

投資家は、SPVが保有する不動産から生じるキャッシュフローを原資とした分配や利息、元本償還を受け取ることができます。

 

・化体の意味と請求権の転換
不動産証券化における「化体」とは、不動産が生み出すキャッシュフローに基づく財産的価値に対する請求権を、有価証券という形態に転換することを指します。すなわち、現物不動産の所有権そのものではなく、その不動産が生み出す経済的利益への権利を証券化し、流通可能な金融商品として投資家に提供するものです。

・不動産証券化商品の種類
不動産証券化商品には、主に以下のようなものがあります。

投資証券:不動産投資信託(REIT)などが発行する証券で、投資家は不動産からの収益分配を受ける権利を持つ。
受益証券:信託受益権として発行されるもので、信託財産である不動産から生じる収益を受け取る権利。
優先出資証券:ファンド等で用いられるもので、優先的に分配を受ける権利を持つ証券。

 

・SPVの活用
SPV(特別目的事業体):証券化の中核を担う事業体であり、オリジネーターや投資家から独立して原資産の管理・運用のみを目的とします。SPVを介することで、倒産隔離 (オリジネーターやSPVの倒産リスクを投資家に波及させない仕組み) が実現されます。

 

・専門的意義
不動産証券化は、実物不動産市場と金融・資本市場を結びつける高度な金融技術であり、資産の流動性向上、投資家層の拡大、リスク分散、資金調達手段の多様化など、現代の不動産・金融市場において不可欠な役割を果たしています。

 

 

企業から見た証券化

 

・企業価値向上におけるトレードオフの本質
企業価値の最大化を目指す上で、資本配分に関するトレードオフの理解は不可欠です。企業は、獲得した現金を新規の資産やプロジェクトへの投資に充てることも、配当や自社株買いの形で株主に還元し、株主がその資金を外部の金融市場で再投資できるようにすることも可能です。

この際、企業が内部で行う投資の収益率(内部収益率)が、株主が外部で得られる投資機会(資本コストや期待収益率)を上回る場合、経営陣は企業価値の増大に寄与していると評価されます。逆に、内部投資のリターンが外部投資機会を下回る場合、株主に資金を還元する方が合理的です。このため、企業の投資判断の基準は、株主が企業外部で享受できるリターンに依拠することになります。

内部投資の収益率 > 株主の外部投資リターン
→ 企業は積極的に投資すべき

内部投資の収益率 < 株主の外部投資リターン
→ 資金は株主に還元すべき

この考え方は、資本配分の効率性を高め、企業価値の最大化に資するものです。

・証券化の起源と資金調達イノベーション
証券化は、企業の資金調達手法における重要なイノベーションとして誕生しました。従来、企業は株主資本(エクイティ)や負債(デット)を通じて資金を調達してきましたが、これらは共に企業の資産や事業が生み出す将来キャッシュフローに対する請求権を表します。すなわち、株式や債券といった金融商品は、キャッシュフローの分配に関する金融契約(金融資産)です。

証券化の本質は、企業が保有する資産や将来キャッシュフローを裏付けとして、それらへの請求権を金融商品として切り出し、投資家に販売することにあります。これにより、企業は資産の流動化を図り、従来よりも低い資本コストで資金調達を実現できるようになりました。

株主資本・負債:企業のキャッシュフローに対する請求権

金融資産:キャッシュフローの分配に関する金融契約

証券化:資産やキャッシュフローを裏付けとした金融資産の発行・販売

このように、資金調達とは企業が金融資産を創出し、市場に提供するプロセスであり、証券化はその高度化・効率化をもたらした革新的手法と位置付けられます。

 

企業不動産とダイベストメント

 

企業におけるダイベストメント(Divestment)は企業戦略における資本再配分の一環として、資産の売却や事業部門・子会社の切り離し(スピンオフ、スピンアウト)、さらには企業の一部または全部の清算を含む包括的な戦略的行動を指します。

 

1.ダイベストメントの定義と形態

①資産売却

不採算資産や非中核資産の売却による資本効率の向上。

②事業売却

スピンオフ:親会社が特定事業を分離し、独立した法人として設立するが、資本関係は維持される。

スピンアウト:親会社との資本関係を解消し、完全に独立した企業として分離する。

清算:事業の継続的価値が見込めない場合に、資産を現金化し事業を終了する。

 

2.インベストメントとの対比
ダイベストメントは、企業の成長や拡大を目指すインベストメント(投資・拡大型戦略)とは対極に位置づけられます。従来は「消極的」または「後ろ向き」な戦略と捉えられがちでしたが、近年は事業ポートフォリオの最適化や資本効率の最大化を目指す積極的な経営判断として評価が高まっています。

 

3.ダイベストメントの価値創造効果
資本効率の向上:非中核事業や低収益資産の売却により、経営資源を成長分野に集中できる。

株主価値の増大:不要な事業の切り離しにより、企業全体の収益性や市場評価が向上する場合がある。場合によってはM&A(買収・合併)以上に株主価値を高めることも可能。

財務リスクの低減:座礁資産や将来性の低い事業を早期に切り離すことで、財務リスクを抑制できる。

ESG・サステナビリティ対応:倫理的・社会的観点から問題のある事業の撤退や資産売却もダイベストメントの一環として進められ、企業の社会的評価向上にも寄与する。

 

4.不動産証券化とダイベストメント
不動産証券化は、企業が保有する不動産を証券化し、投資家に売却することでオフバランス化(バランスシート外し)を実現する手法です。これにより企業は資産の流動化と資本効率の向上を図ることができ、まさにダイベストメントの一形態と位置付けられます。

 

 

企業不動産のオフバランス

 

不動産のオフバランスとは、企業が保有する不動産等の資産や負債を貸借対照表(バランスシート)から切り離し、財務諸表上に計上しない形でその利用や管理を行う財務手法です。これは、資産の「保有」と「利用」を分離し、企業の財務構造や経営指標の改善を目的とする企業財務戦略の一環です。オフバランス処理が認められるためには、対象資産に関するリスクや経済価値が実質的に第三者へ移転していることが要件となります。

・オフバランスの主な手法

①オペレーティング・リース
不動産をリース契約(特にオペレーティング・リース)で利用することで、資産計上を回避します。ただし、近年の会計基準(IFRS16、日本基準の新リース会計基準)では、リース資産のオンバランス化が進んでおり、一定の要件を満たす場合のみオフバランスが認められます。

②特別目的会社(SPC)を活用した流動化
不動産をSPCに譲渡し、企業はSPCから賃借する形態をとることで、資産をバランスシートから外します。会計上は「5%ルール」等、リスクと経済価値の大部分が第三者に移転していることが条件です。

★不動産を保有するのが普通の会社形態の場合は法人税と株主配当への課税がされるため、不動産ファンドでは二重課税されない、あるいは実質的に二重課税を回避できる法的な形態(特別法人)が選ばれます。

日本における特別法人は、任意組合、投資事業有限責任組合、匿名組合、信託、投資信託、投資法人、特定目的会社があります。

③セール・アンド・リースバック
一旦不動産を売却し、その後同じ物件をリースで借りることで資産をバランスシートから除外し、同時に資金調達も実現します。

 

・オフバランスのメリット・デメリット

メリット

自己資本比率やROA(総資産利益率)等の財務指標の改善/資産圧縮による経営効率の向上/資金調達の柔軟性向上

デメリット

実質的な債務やリスクが財務諸表上見えにくくなる(透明性の低下)/会計基準の変更によるリスク(将来的なオンバランス化の可能性)

 

一方で、企業が直接保有し、貸借対照表に計上されている不動産はオンバランス不動産と呼ばれる事があります。

オンバランス不動産は、投資用不動産や流動性の高い金融資産と比較して資産回転率が低い傾向にあります。これは、オンバランス不動産が企業活動の基盤として利用され、単体で収益を生み出す性質が弱く、資本効率(⋆ROIC:投下資本収益率)が高くなりにくいためです。

一方で、オンバランス不動産は他の資産と比較して営業利益率(マージン)が高い場合があります。これは、企業の本業に不可欠な資産であるため、安定した収益基盤として機能することが多いことによります。

★現行会計基準の動向
近年、リース取引や不動産流動化に関する会計基準の厳格化が進んでおり、従来オフバランス処理が認められていた取引も、今後はオンバランス計上が求められるケースが増加する見込みです。CRE戦略や財務戦略の策定にあたっては、最新の会計基準動向を踏まえた慎重な判断が求められます。

 

総論

 

企業が不動産の証券化を行う理由は、

①企業価値の向上(経営効率の向上)

②戦略的焦点を研ぎ澄ます(経営資産の選択と集中)

③不動産運用事業を拡張する(自社ビル利用や単なる現物保有から収益構造を拡大する)

といった意思決定の連鎖によるものであると言えます。

 

⋆ROIC(投下資本収益率)=総資産投資収益(税引後営業利益)÷総資産

企業価値向上のための経済的利益=総資本×(ROIC-資本コスト「WACC」)

-不動産証券化マスター

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